愛の座敷牢

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クソみたいな日のためのプレイリスト

 ビンゴ記事である。前回はこちら

 

 基本的に真面目に生きてないので、人生設計にはことあるごとにいろんな不具合が生じる。大抵暑くて湿気の多い日はろくなことがない。雨降ってる日はろくなことがない。野球部がはばを利かせる時期はろくなことがない。もうこの時期は本当に昔からろくなことがない。碌なことがない月、を略して六月と読む、と書いてて思ったけど今は七月である。質の低い月と書いて七月とでも読んでやろうか。

 ともかく夏という季節は性に合わない。暑いしジメジメしてるし暑いし冬に比べて美味しいものも無いし暑いし蝉が道に死んでるし暑いし窓開けたまま寝てると朝には部屋の中羽虫だらけになるし暑いしもう本当に暑い。

 27年間生きる中で心と身体の細胞の死滅した部分を少しずつ削ぎ落し、空いた隙間に機械油と鉄くずを詰め込むような自己修復を繰り返した結果、心を持たぬ機械と成り果てたわたくしは、鋼鉄の心と体を有し耐久性に優れる反面、水分と暑さに致命的に弱い。ゆえに夏は意図してないバグが他の時期と比べても格段に起こりやすく、この時期はいつも縁石に蹴躓き、深めの水溜りにスニーカーを沈めるような、些細でしょうもない失敗を繰り返している気がする。こないだは車のワイパーのゴムが切れて、もうかれこれ2週間くらい放置している。カー専門店に行くのも億劫である。めんどい

 

 そんな中でも、失敗の一つ一つがボディブローのように重たいものばかり重なり、その上でSNS等で見知らぬ他者の充実ぶりを覗いてしまい、隣の芝の鮮やかさと自己を比較するなどという生産性の無い行為の果てに、ああ自分には生きる価値が無い、死のう、と地の底まで落ち込んでしまう日がたまに来る。その場にとどまっておくとぬかるみに両足を掴まれて地の底まで引きずり込まれかねない、いやむしろ引きずり込まれて何も考えられなくなることを、いっそ望んでしまうような日が、来る。

 そういう日は感情に任せて潔く死んだってかまわないのだけど、生憎ワールドトリガー宝石の国もワンピースも、そして最近ようやく再開したチェンソーマン第二部の結末も見届けられていないのはこの世に未練が残りかねないので、おいそれと命を絶つのも気が引ける。なのでそういうときはただすべての情報を遮断して音楽を聴いて寝ているか、音楽を聴きながら夜中行く当てもなく車か自分の足で彷徨っているか、いずれにせよ音楽を聴きながらぼーっとしていることが多い。別に音楽に自分の人生を快方に導いて頂こうなんて思ってはいないが、強いて言うなればつよすぎる地球の重力とそれに付随する希死の引力から、ほんの2、3センチ浮いて逃れるために聴いている。

 

 前置きが長くなったが本題である。今回は「クソみたいな日に聴く音楽」についての回答となる。当初は何か1曲についてそれなりに語ればいいかな、と考えていたのだが、それより何曲かまとめて語る方が楽なことに気付いたので、簡単にプレイリストを作成していくつか紹介することにする。

 というわけでこちらがその曲目である

 

クソみたいな日のためのプレイリスト 2022年版

・HAVEN/CRYAMY

不眠症/Syrup16g

・劣勢/plenty

・circle depict/lical

・コヨーテエンゴースト/ヒトリエ

・豚の貯金箱/バズマザーズ

夢遊病者は此岸にて/キタニタツヤ

みんなのうた/yeti let you notice

・風待ち/GRAPEVINE

・樫の木島の夜の唄/THE PINBALLS

・instant EGOIST/UNISON SQUARE GARDEN

リボルバー/ハヌマーン

 

 

 まあ各々言いたいことがあるのは分かるが、僕の気持ちが地の底まで落ちて、マジでこの世クソだな~生きてるのいやだな~って時に通して聴きたいアーティストをピックアップするとこうなっちゃうのだからしかたがあるまい。だったらお前が作ってくれ

 ぶっちゃけ好きなアーティストの好きな曲をただ並べただけのプレイリストではあるのだが、なんとなく、コンピレーションアルバムみたいな感じで聴けるといいなあという願望、感覚で曲の選択は行った。順番も通しで聴いた際のメリハリをそれとなく意識している。

 

 というわけで以下曲の紹介

 

 

・HAVEN/CRYAMY

 

 

 好きすぎる。もうこれだけでいい、これ12回聴いて終わりたい

 最近も特に理由もなく、聴くものに困れば最新のミニアルバムである「#4」を聴いているが、大抵「CRYAMY聴きたいなあ」となるときはむしゃくしゃした時が多い。蝉がうるさくてイライラする、という理由で再生ボタンを押している。とにかく口ずさみたくなる歌が多い。中でも「HAVEN」のサビは本当によく歌っている。1人で。

 CRYAMYの歌はだめな自分を突き放すような、ぶっきらぼうに許すような、辛辣と無情と絶望で何層も丁寧にコーティングを重ねた希望に満ちているが、この「HAVEN」も例外ではない。そもそもまず曲名がとてもいい。避難所。安息所。

 

ああ、どこかに行きたいのに どこにも行けない らららららら
でもね こんな気持ちは誰にも 言えないままなんとなく生きるのさ

HAVEN――CRYAMY

 

 どこにも行けないと歌うカワノの歌を避難所にしている。

 自分が負の感情に圧殺されそうになっているときにCRYAMYの音楽を聴くと、とりあえず今の心情は一旦そこに放置した上で「いい曲だなあ」という純粋な感情だけが残り、ある種フラットな心の状態となる。たとえ自分の周りのことが何も解決して無かろうと。

 どんなに嫌な気持ちの時に聴いてもいい曲は色褪せないのだなあと、本当に当たり前のようなことを思う。本当に良い曲。なんかもうだめだ~って日はこの曲から始めたい

 

 ちなみにこの記事で紹介する曲の中で唯一これだけサブスクが無い

 

 

 

不眠症/syrup16g

 

不眠症

不眠症

  • provided courtesy of iTunes

 

 とにかく即座に死にたい、この世に強制的に自分の居場所を無くしたいときに聴きたいsyrup16gの中でも、それがとくに重たいときに聴きがちなHELL-SEEの中から一曲選んだ。世界一愛すべき地獄のアルバム

 正直HELL-SEEは通して聴いてこそみたいなところはあるが、もうそれを言ってしまうとこれから紹介する曲全部当てはまってしまってこの記事の存在意義すらなくなってしまうので仕方があるまい。ただHELL-SEEは一曲目の「イエロウ」から最後の「パレード」まで通して聴いた時のあのカタルシスを味わうためのアルバムのような気がしないでもないので、まだ聴いたことない人はぜひ通して聴いてほしい。

 目を瞑っても嫌なことや上司の顔ばかり思い出してしまってろくに眠れないときに、縋るように爆音でこれを聴くともう眠る気すら失せる。反対に極小音で聴くと不思議なほどに眠れる。

 

この間俺はまた
でかい過ち犯したんだ
それはただ時が経ちゃ
忘れてく問題だろうか
それは無いな今もまだ
空っぽのままで生きてるよ

不眠症――syrup16g

 

 語彙も使う比喩の質も関係なく、ただ受け手側がしっくりくる「正解」を綴る言葉がすべての概念に対して存在するとして、自分にとってはsyrup16gは「どうしようもなさ」に対する正解なんだろうなと思う。目には見えない「救い」を歌にしたら多分こんな感じ。

 まあそんなことはどうでもいいんだようるせえてめぇ、聴け

 

 

・劣勢/plenty

 

 ここからほんの少しだけプレイリストのテンションを上げる。

 

劣勢

劣勢

  • plenty
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

 本当にほんの少しか?

 plentyの「this」というアルバムがすごく好きで、今でも落ち込んだ時や心につよいダメージを受けた際に聞き返しているのだが、聴き返すたびに感情の比重の大部分を音速で奪い取って流れ去ってしまうのがこの「劣勢」という曲。個人的にplentyはミドルテンポな曲がめちゃめちゃ上手いバンドのイメージがあるが、聴覚が小学生なので劣勢のような重たく鋭い演奏の曲がどうしても耳に残る。ドラムのイントロだけでじわじわとテンションが上がってしまう。生まれ落ちた瞬間から劣性だった自分の劣勢時に特に突き刺さる魂の一曲である。

 the cabsが切っ掛けで知ったバンドだが、plentyはcabsと違ってわりと好きになるのに時間が掛かったバンドだと思う。「人間そっくり」から入ってリリースされていたアルバムを過去作から順繰りに聴いていくうちに自然と、徐々に好きになっていった。聴いた時間がだいぶ違うが、自分にとってはGRAPEVINEのような存在である。

 青臭さも達観も隠すことなくすべて内包した詞世界と、スリーピースならではの余計なものをそぎ落とした音楽、そして独特な佇まい。好きなところしかない。このバンドがもう生で観ることが出来ない事実が本当に悲しい。

 僕のような、交友関係や広い人脈の構築といった、自分の外側にセーフティネットを張り巡らせる手間を惜しんでしまった人たちは、自分がいつか滑り落ちない様に自分の中に縋る糸を張り巡らせるしかない。きっとplentyのようなバンドは、そういうどうしようもない僕らの目の前に垂らされた、か細くも強靭な糸になり得るのだろう。

 きっとこれから先もこの曲とこのアルバムにお世話になることがいっぱいあるんだろうな、と思う。

 

 

・circle depict/lical

 

circle depict

circle depict

  • provided courtesy of iTunes

 

 一曲くらい女性の声が欲しかったので、演奏ごりごりで明るくない歌詞を紡ぐバンドということでlicalをチョイスした。改めて考えるとlicalって変えの利かない唯一無二のバンドなんだなと改めて思う。今でも活動再開を願っている。

 何年か前に偶然観たlicalのライブで衝撃を受けて一瞬でファンになってから、はじめてリアルタイムでリリースされたEPが「metamorphose」だった。作品として一番好きなのは「filmeld filament」だけど、一番聴いたのはおそらくmetamorphoseだと思う。「circle depict」はそんなEPのリード曲である。licalならではのキレキレすぎてもはや何やってるか分からん演奏に、似合わないほど儚く痛々しい詩が乗っている。それでも歌モノとしてちゃんと聴けるのが本当にすごい。何度もいうけど年下だと思いたくない。

 licalが紡ぐ歌詞に滲み出る、痛々しいまでに鋭利さを帯びた憂鬱は、もう今の時代では結構普遍的で、カジュアルに受け入れられてしまうものなのかな、と思ってしまう。

 せめて普遍的なものでなくあってほしい。鮮やかな憂鬱くらいは自分のものだけにしたい

 

 

・コヨーテエンゴースト/ヒトリエ

 

 

 プレイリスト、もといコンピレーションアルバム風となると、多少なりとも分かりやすい山場が一つ欲しかったのでチョイスした。大好きなヒトリエ、それもかなり強い曲である。それ以外に何も語ることがない。もうそれだけでいい。

 鬱屈した感情はある一定以上のBPMにはついていけないので、これを聴いていると嫌なことは全部自分の身体の外側に溶けて流れ出てしまう。あの、雨上がりの道路にたまに、虹色の液体が滲んでることがありません? あれ実はコヨーテエンゴースト聴いて流れ出た僕の鬱屈です。踏むと嫌な気持ちになります。

 もう「彼」の声で聴くことの出来ない最高速のこの曲を大音量で聴いていると、自分の身体からセメントのような憂鬱がぼろぼろと剥がれ落ちる解放感と、一番カッコいいコヨーテエンゴーストを生で聴くことが出来ない事実の辛さに眩暈すら覚える。死ぬほどイライラした時に、深夜のほかに誰もいない高速道路を法定速度ガン無視してぶっ飛ばしながら聴きたい。もう人生のすべて。本当に大好き。最高

 俺は青眼のコヨーテなので未だに泣きじゃくったまま

 

 

・豚の貯金箱/バズマザーズ

 

豚の貯金箱

豚の貯金箱

  • provided courtesy of iTunes

 

 コヨーテエンゴーストのテンションを受け継いで、くすぶったままの自分をさらに芯からぶっ壊せる曲をもってきた。正直ワンナイト・アルカホリックとかでもいいかなと思ったけどまあ、都合上ハヌマーンは最後にしたい。

 噂によるとこれはバンドの売り上げを横領したバンドの元マネージャーに向けた曲らしいが、こんなバカ強い曲を個にぶつけられたらこの世に身体どころか未練すら残らない気がする。万象一切ごと焼き切る火力をただの一個人に向けられる贅沢。あまりに壮絶だと心中お察しする気持ちもあれば、向けられた側に羨ましさすらも感じてしまう。感情のグラデーションが極彩色の坩堝と化す、どこまでもストレートなエイトビート

 

同じ雨に濡れたろう?

同じ苦渋を飲んだろう?

同じ歓声を聴いたろう?

同じ痛みが無いのはどうして?

豚の貯金箱――バズマザーズ

 

 CDに残された怒りの感情のほんの一欠片ですら、触れたら火傷しそうなくらいの熱を帯びている。それが音源として存在していることの尊さに眩暈すらしそうになる。何も考えずにただ音に殴られて失神したいときによく聴いている。自分の淵底に素手で触れるような鮮烈さと、魂を鉄パイプで砕き割るような激烈な威力を秘めた、慈悲も休息も与えないバンドの渾身の一撃。僕はおそらく一生こういう音楽が好き。

 

 

夢遊病者は此岸にて/キタニタツヤ

 

 

 暗い四畳半の隅で同じ過ちを犯し続けているのでこの曲が入る

 ここ2~3年の間で、単純に時間換算で一番聴いているアーティストは彼かPK shampooだと思う。それくらいにハマって聴いている。なんでこんにちは谷田さんの時からちゃんと聴いてなかったのか悔やんでしまうことが何回もある。錯蒼のベースやってたころにちゃんと認知してくれ過去の俺

 彼の作る曲は例え音が不気味であろうと、不思議なくらいに耳心地か良い曲ばかりである。どんな曲でも問答無用で「良い」となってしまう。彼の曲の気持ちよさはどこから来るんだろう。こういう時にちゃんと理屈で音楽を咀嚼したいなあと思う。

 最近は意図して「もっと大勢に届くこと」を意識して歌詞を書いているらしいが、ボカロPとシンガーソングライターの狭間で活動していた時期の曲は本当に質のいい絶望に満ちていてとても肌馴染みがいい。

 

水銀で満ちた浴槽、浸かってしまった僕の軽忽さを
そう、誰も彼もが笑っている
抜け出せないんだ ずっと
この人生はもうお終いにしよう
僕が僕を許してしまう前にさ

夢遊病者は此岸にて――キタニタツヤ

 

 彼自身の性根が明るいこともあって彼の鬱屈した歌詞はなんというか、大変にお行儀が良いが、故にその卓越した語彙と言葉選びが前のめりに出てくるので、逆に彼のセンスを見せつけられる気がする。東大卒ってすごい!

 どうでもいいけど、比較的心が元気な時にキタニタツヤを聴いていると、キタニタツヤは東大出てこんなすばらしい音楽作ってるのに、俺は……みたいな気持ちになって心が死ぬことがたまにある。それだけが彼の欠点と言える。当たり屋の思考か?

 

 

・みんなの歌/yeti let you notice

 

みんなの歌

みんなの歌

  • provided courtesy of iTunes

 

 ブレーキ。ここで一度地に落ちる。そのための曲。

 このバンドはもうどうやって知ったか詳しくは覚えていないが、記憶が正しければ、何年か前に入っていたインターネットのコミュニティ経由で偶然知り得たバンドだったと思う。その時に初めて聴いたのがこの「みんなの歌」だった。

 何年も前のことなのではっきりしたことは言えないが、当時はYouTubeにこの曲のライブ映像があった。狭いライブハウスの、ほとんど暗がりのような照明で演奏している姿を何度も観返した。ある時期を境に動画自体が非公開になってしまったが、あれはいつか復活したりするのだろうか。僕は未だにあのライブ映像が観られないことが残念でならない。

 

置き忘れた新聞を読む人もいて

僕も見ないできたものと向き合おうと思うんだ

棄てられたゴミを拾う人もいて

僕も忘れてきたものを拾って来ようと思う

みんなの歌――yeti let you notice

 

 歌詞も音も落ち込んだ身体にシンプルに効く。シンプルに沁みる。それだけ。ただそれだけなのに、これまでの生の中でひたすらに自由落下する僕の受け皿となっている、かけがえのない曲である。サビの歌メロがいつ聴いても良い。

 最近yetiのギターの人がキタニタツヤのサポートで弾いてることを知って、世界って自分の知らないところでいくらでも繋がってるんだなあと思った。いつか一度、生のライブで見てみたい。キタニもyetiも

 

 

 

・風待ち/GRAPEVINE

 

 

 いいよもうこの曲は、何も語らなくて

 

 クソみたいな日、なので最後は強がらずにきちんと救いを設けるべき、ということでそのとっかかりにGRAPEVINEから大好きな一曲を選んだ。もう国歌にしろ

 僕の身体は僕が食べたもので出来ているが、僕の肉を切り骨を絶った神経の最奥、原初の階層に刻まれた螺旋にはGRAPEVINEが随分濃く染みついており、川魚が誰からも教わることなく遡上するように、人生設計に致命的なミスを感じた日はとりあえずGRAPEVINEに回帰している。その中でもこの風待ちは特に帰ってくる回数の多い曲である。実質親

 

あれ? いつの間にこんなに疲れたのかなあ

まだいけるつもり? ちょっとは辛い

また花は咲き枯れました

たまには貴方の顔 見れないもんかなあ

風待ち――GRAPEVINE

 

 いつ聴いても良い曲を、敢えてクソみたいな日に聴く勇気、と書こうと思ったが、その神経はキャバ嬢に職場の愚痴をこぼすオッサンに近いことに気付いて何も言えなくなった。いいんだよ良い日もダメな日もGRAPEVINEはなんにも変わらん。いつ聴いても最高。

 どうでもいいけど未だにこの謎MVの解釈が分からん なんで車をひっくり返す? なんで車を落とす?

 

 

・樫の木島の夜の唄/THE PINBALLS

 

樫の木島の夜の唄

樫の木島の夜の唄

  • THE PINBALLS
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 プレイリストにTHE PINBALLSを一曲は入れたかったのだが、何を入れるか本当に迷った。特にあなたが眠る惑星、299792458、DUSKあたりと迷った。結果自分にとっての救いとは何かと考えて、その回答と一番マッチしている曲を選んだ。

 僕らが観ている世界は広大に思えて両手で覆えるほどに手狭なもので、自分の生き方全てを自分で取捨選択したように思えても、その実あらゆる物事がほとんど強制的に決められるように出来ている。井の中の蛙大海を知らず、と宣う自分が思う大海すらも、実際のところは井戸の中でしかない。頭の良い人たちが作ったシステムという神の手のひらの上で、姑息にマウントを取り合って生活をしている。今更これを否定する気も無いが、抱く願望や夢や幻想のほとんどはその想像と変わらない虚像、オープンワールドゲームの世界の端のような張りぼてに過ぎないのだろうな、などと、そういうことを思って虚しくなることがある。

 ただそれをすべて総括してこの世の全てはまがい物だと言い切ってしまうことを躊躇う程度には愛は点在しており、それを思うこと拾い集めることは無粋でも、無駄な事でも何でもない。「樫の木島の夜の唄」はそれを改めて教えてくれる救いの曲である。

 

夜が星を語るたびに

彼は思い出している

流れ星の正体が 綺麗な石じゃなくても

流れ星が消えるときの

その美しい最後も

だから今 夢を見ること

樫の木島の夜の唄――THE PINBALLS

 

 何気に15周年ライブで披露されて一番驚いたのはこの曲だったかもしれない。

 1~2分の潔いくらいの短さの曲が多いTHE PINBALLSには珍しく、5分越えという結構なボリュームのバラードであるが、それが気にならないほどにずっと聴いていられる強度のある曲である。眠らない男が樫の木を眺めている間に俺も眠りたい。

 古川氏は新しいバンドを組んで相変わらずカッケー声でカッケー曲を作り歌っておられるが、僕は夢を見ることを無駄だって思わないのでいつまでもTHE PINBALLS活動再開を待っているぜ

 

 

・instant EGOIST/UNISON SQUARE GARDEN

 

instant EGOIST

instant EGOIST

  • provided courtesy of iTunes

 

ストップモーション この時間そう君のなすがまま

忙しい人生の隙間で

嫌になるたびに呼び出しボタン押して良いから

せいぜい明日も頑張って!

instant EGOIST――UNISON SQUARE GARDEN

 

 せいぜい明日も頑張るための曲。この曲に関しては何も語らなくていいだろ、これまで散々いろいろ語ってきたんだから。はい、最高に好きです。

 永遠の最後から二番目。この曲を最後に聴くような人生だけは送らないようにしたい

 

 

リボルバー/ハヌマーン

 

リボルバー

リボルバー

  • provided courtesy of iTunes

 

弾倉には一発 共犯者になってやるよ俺が

ぼーっとしてんなよ 行け リボルバー

リボルバー――ハヌマーン

 

 というわけでラストトラック。RE:DISTORTIONにはこれまで本当にお世話になっております。これからも末永くよろしくお願いいたします。

 どんなに会社に行くのが嫌な日でもどんなに憂鬱な朝でも、幸福のしっぽからのこの曲で、どうなったっていいから、どうにかこうにかその日一日は凌いでやろうという気になる。アッパー系ドラッグとか精神へのブースターとかいろいろ言葉を考えたけど、率直に言うならもう、自分に向けた一番の応援歌である。

 自分の懐に入ったろくに狙いも定められないちんけな銃の弾倉には一発、この曲が込められてる。その事実だけで全てなんとかなりそうな気がする。何とかならなくても俺には最強の共犯者がついてる

 一日の終わりに聴きたい曲はその日によるけど、今の価値観で行くなら人生の最後に聴きたいアーティストはハヌマーンである。自分以外に誰もいない狭い部屋で、ハヌマーンを1人聴いて悪くない人生だったと笑って死ねたらそれだけで幸せだと思う。

 まだ聴いたことない? ぼーっとしてんなよ、聴け!リボルバー

 

 

 

 というわけでこれがわたくしの選ぶ「クソみたいな日のためのプレイリスト」である。もう少しだけ続く嫌な季節のなかで、色の黒い野球少年が黄色い声援を受ける姿を、指のついでに臍を噛んで眺めている僕のために作った。自分で言うのも何だがとてもいいプレイリストだと思う。

 ただまあ、ぶっちゃけ通して聴いたってクソみたいな日は結局クソで変わらんよ 臭いが多少マシになるだけでクソはクソ いいから定時で上がらせろ

 

 死にたいな、呼吸するの飽きたな、明日ミサイルが落ちてきて学校或いは家庭もしくは職場が吹き飛んでくれないかな、と思っているあなたの心が少しでも癒せたらいい、とはこれっぽっちも思わないが、良い音楽を知るきっかけになったらなによりである。

 どれだけ生きるのがつらかろうと、死ぬのが怖ければ結局は生きることしか出来ないのだから、せめて沈み落ちてしまう前に縋れるものをどうにか、低空をギリギリ飛べるだけの揚力に変換出来たら、多少は楽になるのではないか。

 今回はお題ありきなのでこういうテーマで書いてみたが、僕以外の人が何かしらのテーマで選曲したプレイリストも聴いてみたいし、それについて綴る文章があればそれも合わせて読んでみたい。出来ればでいいので。