愛の座敷牢

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中田裕二になりたかっただけなのに指名手配された

 ビンゴ記事である。前回はこちら

 

 

 今回取り上げるお題は「ベストオブ顔がいいボーカリスト」である。

 

 ロックバンドが売れるために、バンドマン、特にフロントマンに一番必要なものは何だろうか。

 歌唱力? 演奏スキル? 人間性? カリスマ性? 魅力あるMC? Twitterで面白いこと言う力? そりゃどれもあって困るものではないが、売れる素質として一番手っ取り早いものは間違いなく優れた容姿であろう。

 この世がルッキズムに支配されている以上、一定以上の容姿はその音楽の出来に関わらず、バンドの知名度や人気を向上させる。早い話、100万円使って機材揃えて音源のクオリティにこだわるより、その100万でボーカルを整形外科に放り込んだ方がバンドは売れるのだ。

 だって考えてもみてほしい。もしも斎藤宏介氏が清潔感の欠片も無いブ男だったらUNISON SQUARE GARDENは間違いなく今のような売れ方をしていないし、川上洋平氏のお顔の右半分が機械むき出しの改造人間だったら[Alexandros]のファン層は間違いなくSF研究会の集まりになっている。

 メンバーお三方共にもう30代後半にもなるユニゾンが未だにティーンエージャーに人気なのは彼らが身だしなみに気を使って清潔感のある容姿を維持し続けているからだし、川上洋平氏は実は皮膚の裏側が全部機械なのでどれだけ月日が経ってもずっとあの塩顔イケメンのままだ。あの人は異次元。多分あと10年経っても顔変わらん。

 

 そう、売れているバンドの人間は得てして容姿が優れている。たとえお世辞にも優れている容姿では無かろうと、それなりに優れているように見せている。そのためにスタイリストやメイクアップアーティストが裏についており、主要なメディアに出演する際はバンドマンの魅力を最大限に引き上げるべく尽力しているのだ。

 不快感を与えない容姿というのは一部の特例を除いて、推奨するものではなく義務である。ダサいロックスターなど誰も憧れはしないのだ。

 もちろん僕が好きなミュージシャンおよびボーカリストも、それぞれの個性は有れど、ほとんど全員が僕自身が憧れてやまない容姿をしている。

 故に非常に悩ましいお題である。みんなカッコいい。俺だって金とそれが可能な骨格さえあるなら、今すぐにでも整形外科に飛び込んで、医者に小林私の画像を見せながら「頼むからこの顔にしてくれ」って懇願したいし、今から飛び降りて死んだら5%の確率で水野ギイの顔面に転生できるチャンスを得られるなら迷わず東尋坊へ向かう。

 

 

 とはいえ、正直考えるまでもなく答えは決まっている。僕の中で1番顔がいいボーカリストは斎藤宏介氏でも川上洋平氏でも水野ギイ氏でも谷川正憲氏でもなく、元椿屋四重奏、現在はソロで活動しているミュージシャン、中田裕二氏である

 

 

 信じられるか? この人御年41歳なんだぜ……?

 

 この動画を観ても分かる通り、現在でもきわめて端正な、尋常ではなく色気のある、鬼のように魅力的なお顔をされているが、椿屋四重奏というかつて活動していた鬼カッコいいバンドが大好きな僕としては、やはり椿屋時代の中田裕二氏につよい憧れがある。もうマジのマジでカッコいい。どれくらいカッコいいかって、彼のドアップが1stアルバムのジャケットになるレベルである。

 

 

 僕はとっくに解散してからこのバンドの存在を知って、悔しがりながらYouTubeのMVを貪りつくした側の人間なので、当時の椿屋にどれだけ彼の顔ファンがいたのかは知らないが、画面の向こうでマイクを握り妖艶に歌う椿屋時代の彼の顔面の端麗さは、なぜ当時無形文化遺産に登録されなかったのかを疑問に思ってしまうレベルの美青年ぶりで、はじめて「いばらのみち」のMVを見た時の衝撃といったらない。

 

 

 このお顔で、こんなにエッチな声で、文学的色気をムンムンと放出する歌詞を紡ぐなんて、それはもう放送倫理検証委員会にひっかかっても仕方ない。これはテレビ局に同情する。 法に触れるレベルで顔がいい。YouTubeの動画が削除されていないことが奇跡と言える。この世がエンタの神様だったら間違いなくキャッチコピーに「歌うR-18」ってつけてる。質問来てた! 中田裕二の顔の良さは犯罪ですか? 結論 犯罪

 そもそも楽曲がどれも最高なので顔面関係なしにYouTubeにアップロードされているMVを全て観尽くしてほしいが、個人的な顔面ベストテイクは上に挙げた「紫陽花」とこの「恋わずらい」である。

 

 

 顔のいい男が無造作に襟足を伸ばすな 

 もはやこれはなぜかめちゃくちゃ妖艶でカッコいい音楽がバックで鳴っている、中田裕二主演の4分52秒のイメージビデオである。ハンドマイクで口元が隠れた瞬間の色気がヤバすぎる。口紅を頬に付けられた時の所作が性的過ぎる。僕が女だったら間違いなく彼以外の男の顔面が全て丸めたティッシュに見えるようになると思う。それほどまでの顔面偏差値の暴力。

 ここまで語っててなんだけど大丈夫か? この記事今までの記事で一番気持ち悪くないか?

 これ以上語ると流石に後戻り出来なくなりそうなのでここらでやめにしたいのだが、この恋わずらいのMVには、学生時代の僕のちょっとした苦い思い出が有る。それを紹介して終わりたいと思う。

 

 

 忘れもしない高校三年生のある夏の日、秋に入試を受ける予定の短期大学への願書に貼る顔写真を撮るために、僕は近所のスーパーの前に設置されている証明写真機に訪れていた。

 今以上にちゃらんぽらんな性格だったが故に、願書も何もかも提出期限ギリギリになって顔写真が必要なことが判明し、全てにおいて足りていない自分を心底呪いながら必要最低限の荷物だけを持って自転車をかっ飛ばし、生まれて初めての証明写真を撮影した。

 そこまではいいのだが、何を血迷ったか僕は撮影の直前にスーパーのトイレで髪をわりとしっかり目に濡らしてから撮影を行ったのだ。そう、動画のサムネイルでもお分かりの通り「恋わずらい」の中田裕二に憧れたが故の奇行である。

 今思えば満場一致で果てしなくバカなのだが、その時の僕は大まじめに、どうせ映るんなら少しでもカッコいい方がいいだろうと思ってやったらしい。

 そうして写真機の指示に従って得られた写真には、当然濡れ髪で色気抜群の中田裕二ではなく、どっかの指名手配犯のような風貌の自分が映っていた。服装は乱れて目はうつろ、謎の顰め面に謎にずぶ濡れの髪。あまり自分の容姿に関心の強い方ではない自分でも「これはダメだろ……」と青ざめてしまう出来だった。なぜそれを印刷してしまったのか、撮り直しは本当に出来なかったのか、未だにあの時の自分の愚かさが信じられない。

 そもそも当時から自分の写真を撮られることがあまり得意ではなく、写真写りがあまり良くないこともあるが、その時はタチの悪いことに全力で自転車を濃いだ後、息も整わないまま撮影を始めたので着ていた制服もぐちゃぐちゃという、考えられる限り最悪な状態で写真を撮っていた。

 その上で髪をびしょびしょにしているのだからもう救いようがない。街角アンケートで当時の証明写真を見せながら「この人物は受験生か、それとも犯罪者か」と問えば、9割以上の人間が犯罪者と応えるであろう特級の呪物がそこにはあった。

 ただその時は撮り直すお金も、加えて時間も無かったので、その写真をその場で切り取って願書に貼り付け、そのまま学校に提出してしまったのだ。

 結果的に僕はその短大に合格し、春から実際に通うことになるわけだが、後日学校から貰った学生証には件の指名手配犯の写真が貼ってあって、思わず膝から崩れ落ちた。

 こうして僕は短大を卒業するまでの2年間、信じられないくらい不細工な写真の貼られた学生証を使い続けた。というかこの件がきっかけで、自分が本当に容姿に優れていないことを自覚した気がする。

 

 今でも「恋わずらい」のMVを観ると当時の痛々しい思い出がよみがえり、羞恥の果てにところ構わずそこらじゅうに頭をぶつけて回りたくなる。もしかすると俺の先祖はパキケファロサウルスなのかもしれない

 

 

恋わずらい

恋わずらい

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 代えのない代物だ 顔は……