愛の座敷牢

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2020年度・個人的名盤10選

 2020年がもうあと3日ほどで終わりを迎えようとしている。早い。ここ数年は毎回思っているが、早い。始まったと思ったらもう終わっている。年々一年が短くなっていく感じがする。体感時間的には19歳が人生の折り返し、という昔の頭いいやつが唱えた説の正しさを、自身の身体でまざまざと実感している次第である。

 今年はどんな年だっただろうか。僕個人的にはまあ、いい年ではなかった。仕事は急に忙しく鬼畜になったし(まだ人道的な範囲だが)、勝手に決めてた趣味での目標は達成できなかったし、好きな漫画がすごく嫌な終わり方をしたし、年末年始にそれぞれ祖母を亡くした。自分のふがいなさのせいだと反省できることもあったが、どうにもならないことの方がやっぱり多かった。例えばそう、ことごとく潰れたライブの予定とか。

 今年ライブに行けたのは2月の頭までで、残り10か月と少しは一度たりともライブハウスに行くことがなかった。今年のライブ鑑賞数はなんと驚異の2本である。いや、今の状況を考えると2本観れただけでも運がよかったのかもしれない。どれもこれも今年世界で一番憎まれたであろう、悪鬼羅刹も半泣きで手洗いうがいをするコロナウイルスのせいである。性格も性質も悪すぎ。一刻も早く滅してほしい。

 年始のアリーナライブでの感染報告を皮切りに、参加予定だったライブはことごとく中止か延期の憂き目に遭い、アーティストからのライブが出来ない旨の報告のたびにSNSは阿鼻叫喚の嵐。開催したならしたでフェイスガードだの喋るの禁止だの前年度までの感覚なら確実に守られない制約と、なりふり構わず突撃隣のバンドマンを決行してくる自粛警察の方々に頭を抱え、後半に開催されるライブは例え参加できそうでも世間体とかいう胡乱なものを考慮の上で「行かない」を選択するのが当たり前になるという有様。無粋極まりないのは分かってるんだけど、結局ロックンロールは病魔に負けるんだな、なんてことを思ってしまったりした。本当にフラストレーションの溜まる一年だった。ああまぼろしと消えてしまったUNISON SQUARE GARDENヒトリエの対バンよ、いつかまた

 一介の邦楽ファンの一人である僕でこれだけの涙をのんだ1年なのだから、ロックバンド含めて音楽業界に関わる人たちは阿鼻叫喚なんてものではとてもじゃないけど片付けられない甚大な被害を受けたのだろう。本当に激動の1年だったし、これから先も当分はこの状況が続くのは容易に想像できる。なんにせよ、一刻も早い事態の終息をだな、頼みますよほんとに

 

 そんな終わりの見えない憂鬱に包まれたまま終わりを迎えようとしている2020年だったが、ライブツアーもまともに開催できず、モチベーションの維持すらも困難な中でもありがたいことにアーティストの方々は熱心に制作とコンスタントなリリースを続けられ、今年もたくさんの名盤が生まれた。娯楽産業にことごとく光の差さないこのご時世に、音楽に見切りをつけることなく聴き続けられたのは、新たな音源や配信ライブなどで供給を滞らせることなく真摯に活動を続けてきてくれたアーティストのお陰である。本当にもう日本全国のアーティストの皆さんに足を向けて寝れない。日本全国に足向けて寝れない僕はどうやって寝ればいいんだ。今日から感謝の三点倒立で寝るか?

 というわけで、この記事は2020年にリリースされた個人的名盤を紹介する記事である。今までTwitterでぽーんと投げるだけで終わっていたのだが、せっかくブログをやっているのだから少し文量を増やして記事にするのもまた乙かな、と思いたって筆を取った次第だ。毎年言っているが今年は本当に名盤が多く、正直8月とかそのくらいには10選決めれるくらいに良作が出そろっていたのだけど結局最後の方までもつれ込んでしまった。

 今年はライブにほとんど行けなかったので必然的に例年より音源と向き合う時間というのは長くなったんだけど、それはアーティスト側も同じなのかとにかく力の入ったアルバムが本当に多かった。ライブで殺せない分音源で殺すと言わんばかりのありがたい殺意の籠った前のめりオフェンシブなやつらが揃いに揃っている。一部の例外を除いて、初聴時から心を鷲掴みにして離さない威力の高い曲を並べたアルバムが本当に多かった。今年の邦楽も豊作です。大豊作。大黒天様も弁天様もいい仕事しとる。

 何度も言うが、本当に10枚選ぶのに苦労した。今回選ばなかった作品にも思い入れのあるものがそこそこな数あるので、来年どこかのタイミングでそれらについて語る記事も書けたらなと思う。なお1~10位のランキングは付けないのでそこは了承いただきたい。選考基準は2020年1月~12月の間に発売されたフルアルバム・ミニアルバムが対象。ベスト盤は選考外。今年で言うとヒトリエの「4」とか。

 

 というわけで前置きはここまでで以下本文。発売日順に紹介する。

 

 

目次 

 

 

CEREMONY/King Gnu

 

【Amazon.co.jp限定】CEREMONY (通常盤) (メガジャケ付)

【Amazon.co.jp限定】CEREMONY (通常盤) (メガジャケ付)

  • アーティスト:King Gnu
  • 発売日: 2020/01/15
  • メディア: CD
 

 

 もしかして去年発売と思ってた? 残念今年でした!

 今や国民的バンドとなった彼らの一枚からスタート。本当に2020年はあまりに層が厚すぎることを感じさせる傑作アルバムである。というかあまりにKing Gnuの名前が去年1年で浸透しすぎて、むしろこういう記事に挙げ辛さすら感じてしまうようになった。知る人ぞ知る、みたいな立ち位置なんて1歩で超えていまや知らない方がもぐり、みたいな雰囲気になってるのはもう仰天の一言。憎き野球部が好きなアーティストとして彼らを挙げることが不思議でも何でもなくなってしまったのだ。あ~あ

 ぶっちゃけ今はもう「King Gnu? ああ白日のバンドね。もう聴いてないけど」みたいな雰囲気漂わせてる人がTwitterの奥の方に沈殿してる。俺の中ではあいつらの時代は終わったから、と言わんばかりの態度取ってる。総じて新しい音楽を常日頃から開拓している人は、めちゃくちゃ嫌な例えをするとゴキブリを追っかけるアシダカグモみたいなもんで、一度好きになって「これヤバい」と大騒ぎしたとしても冷めるのが超早い。「井口君推しです♡」みたいな人種が群がるころにはもう離れてる。いやこれはまた別の問題か。それはともかくこういう事情があってCEREMONYってアルバムは、ぶっちゃけ今だいぶ過小評価されてると思う。これは本当に。

 ただね、収録されてる一曲ごとのクオリティと聴き心地の良さからして、変に音楽通ぶって選ばない選択肢を取るのは流石にこのバンドに失礼だと思った。前年度のチャートを折檻した実力を見せつける圧倒的な貫禄を感じる。先行で配信されていた「白日」「飛行艇」「傘」「teenager forever」を始め、タイアップ曲がドカンと集結したこのアルバムは本当に、どの曲も単騎性能が頭抜けている。並大抵のアーティストのベスト盤を小指一本で粉砕する圧倒的な強さ。「パワー」という言葉が似合うグッドスタッフな1枚である。

 しかしまあアルバム全体としてとして見たら、さすがに前作のSympaの方が構成面では軍配が上がるかな、という印象。あまりにどれも「強」すぎて息をつく暇がなく、若干メリハリに欠ける。あと初めて聴いた時はどうしても「壇上」のアクが強かった。慣れればあれは歌詞も相まってすごくいい締めなんだけど、今King Gnuの音楽を求めてるリスナーに刺さるかと言われると……

 そういう理由もあって正直なところ個人的にも入れるのに少し迷った1枚ではあるのだけど、そんな事情とか構成面とかいろいろ差し引いてもそれでもやっぱり曲が良い。強い。言ってしまえばそれだけで2020年の並み居る強者を蹴散らして10選に入ってこれるだけのポテンシャルがあると判断してチョイスした。次作が楽しみで仕方ない。

 個人的一押し曲は「Overflow」。単純に聴いてて一番気持ちいいから。

 

 

From DROPOUT/秋山黄色

 

From DROPOUT (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

From DROPOUT (初回生産限定盤) (DVD付) (特典なし)

  • アーティスト:秋山黄色
  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: CD
 

 

 これはもう配信当日に聴いた瞬間から今年の名盤に入れると決めていた。これはヤバイ。明らかに「やっている」アルバムである。今後秋山黄色がこのアルバムを超えるアルバムを出すとしたら狂信者になるかもしれない。それほどまでにヤバイアルバムである。本当に出してくれてありがとうございます元気出る。

 とにかく真っ直ぐ、一筋縄では行かないひねりもありつつ芯の部分はマジでひとえに真っ直ぐな1枚で、俺たちの血潮の主成分を占めるタイプのロックンロールの「マジカッコイイ」成分が凝縮されている。とにかく、濃い。濃いのだ。めちゃくちゃ濃くてうるさいのにいくらでも聴けちゃう。いくらでもテンションが上がってしまう。

 バラード枠にリード曲の「モノローグ」を突っ込んで、他はもう全部ゴリゴリの攻め攻め。「Caffein」のような変化球サウンドや「エニーワン・ノスタルジー」のようなグッとくるメロディラインと歌詞が強めに来る曲もあるが、他は殆ど修羅のごとき純正ギターロック。構成やら何やら難しい曲が犇めいてる今日のニューミュージック界隈の中で、ここまで素直なのは本当に好感が持てる。こういうアーティストにもちゃんとスポットライトが当たってるのは本当に良い。

 これを高校生の時に聴いてたら本当にヤバかったと思う。絶対安物のエレキギターを衝動買いして、3日後Fコードでつまづいていた。ロックンロール適性のある中高生の人生を狂わせる一枚である。

 今から5年後か10年後か、このアルバムで物凄い衝撃を受けてミュージシャンを志した人が、確実に表舞台に上がってくるんだろうなあと思う。そう確信できるほどパワフルで衝撃的な1枚。これが1stフルアルバムとか信じられない。初期衝動と卓越した完成度が高純度で昇華されている。奇跡みたいなアルバムである。出会えてとても嬉しい。

 個人的一押し曲はラストの「エニーワン・ノスタルジー」。歌詞もメロディも全部いい。秋山黄色の曲はとにかくサビのコーラスが分厚くなっており、ガツンと「サビです」と殴ってくれる気持ちよさがあるんだけど、これはモロにそれが顕著に出ている。サビの圧とファルセットがとても気持ちいい。ライブハウスより野外で聴きたい曲。

 

 

SHIMNEY/煮ル果実

 

SHIMNEY

SHIMNEY

  • アーティスト:煮ル果実
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: CD
 

 

 前作の「NOMAN」から僕はまともに煮ル果実を聴き始めたのだが、この「NOMAN」がめちゃくちゃ良いアルバムで、こりゃ次もすごいのがくるぞと密かに期待していたら想像の斜め上をカッ飛ばしてきたやべえアルバムである。タイムリーヒットかと思ったら満塁ホームランだった。

 めちゃくちゃカッコいいギターとベース、妙ちくりんなAメロBメロ、強烈に耳に残るサビ、そしてどこから持ってきたのか分からない独特の語彙から成る歌詞、あたりが彼の持ち味だと思うのだが、それにしてもその4要素が本当にすごい化学反応を見せている。

 まずギターやらベースやらによる滅茶苦茶なイントロで引き込まれて、なんじゃこりゃ、と思わずつぶやいてしまうようなABを聴かされ、問答無用のサビでノせられ、何が何だか分からず茫然としているリスナーをまた強威力の楽器隊で惑わせて煙に巻く。それで何が何だか分からないまままたリピートする、分からないけどかっこいい。そして分からないままハマっていく。関係ないけど、この人バルーンきっかけで本格的にボカロと向き合ったとかなんとか言っててほんとびっくりする。

 とにかく全編ギターが気持ちよくて仕方ない。「生活ガ陶冶スル」のギターソロもそうだし「極楽鳥花」もそう。胸と股間にびりびりクるやべえギターを弾く。カッティングが本当にエロカッコイイ。全曲インストでほしい。

 このアルバムをリリースした際のインタビューによれば、この「SHIMNEY」というアルバムは前作の「NOMAN」と対照的な関係になっているそうだ。分かりやすいところで言えば「Anniv.」と「Unniv.」とか。その辺はまだまだ掘り下げられていないので、これからガンガン考察していけたらなと思っている。聴きごたえ抜群の1枚。

 個人的一押し曲は「プライド・アンド・グルームが通る」。トラフィック・ジャムからこの曲までの流れが何度聴いてもヤバすぎる。イントロのピアノから機知の詰め込まれたサビが大変に好み。2サビの思わず目頭を押さえてしまうような変調は最早伝説的。叶姉妹よりもファビュラス。

 

 

盗作/ヨルシカ

 

盗作(初回限定盤)

盗作(初回限定盤)

  • アーティスト:ヨルシカ
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: CD
 

 

 アルバム間でランキングは付けないと上で書いたが、今年のアルバムの中で1枚だけピックアップするとしたら間違いなくこのアルバムを選ぶ。個人的に今年1番の傑作。本当に飽きることなく聴いた。前作の「エルマ」がヨルシカを聴くようになったきっかけということも含めて僕の中でものすごく大事な作品になっており、流石にそれを超えることはないだろうと軽く構えていたら高すぎるハードルをひょいと超えていかれた。ナブナよ……

 今年は本当に聴くものに困るたびにこれを再生した。何時でもどこでも思いたったらすぐにイヤホンから鼓膜に46分間の快楽をぶち込んだ。最初から最後まで良い音楽しか鳴っていない。

 何がヤバいって先行公開されていた曲から3曲ごとに挟まれるインタールード曲まで、本当1曲たりとも捨て曲がない。頭から爪先まで全部に「良」 が詰まってる。なんなんだ。特に「青年期、空き巣」は本当に、何? 気持ちよすぎる。収録曲も収録曲でイントロからアコギのスラップをぶちかます「昼鳶」に再レコーディングで正統進化を遂げた「爆弾魔」、AメロからCメロまで華やかで軽やかでそれでいてどこか切ない「花人局」などなど一切の不足なし。3曲ごとに挿入されるインタールードのお陰でそれぞれのセクションのカラーの違いを楽しめる構成も相まって本当に聴き飽きない。

 一曲一曲の良さだけで言うならば他のアルバムも負けては無いのだけど、アルバム全体の構成で考えるとこの「盗作」は頭一つ抜けている気がする。もう褒めることしか出来ない。映画主題歌だった「花に亡霊」も含めて5曲が先行で公開されてたんだけど、それを予め聴いててもフルで聴いた時の満足感はなんら薄れることもなかった。厳しめに、厳しめに点数を付けるとしたら、100点満点中1億点くらいのクオリティです。勝ちです。大勝利

 僕は正直サブスクを利用するようになってから、ライブDVD特典とかそういうのが付かない限りアルバムを買わなくなったんだけど、これに関してはもう買った。通常版だけど。今になって初回盤特典の小説が気になって欲しくなってしまっている。初めから買っておけば……

 個人的一押し曲はかなり迷うがやっぱり「花人局」。5分32秒というそこそこの長さをまったくダレさせることなく駆け抜ける、A~Cからサビまで聴きどころしかない凄まじい名曲である。

 

 

STRAY  SHEEP/米津玄師

 

STRAY SHEEP (アートブック盤(Blu-ray)) (特典なし)

STRAY SHEEP (アートブック盤(Blu-ray)) (特典なし)

  • アーティスト:米津玄師
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: CD
 

 

 今や一挙一動が朝のニュースのエンタメ枠になるやべー男こと津玄師の最新アルバム。当然と言わんばかりに選択肢に入り、当然と言わんばかりに選ばれるのは流石のポテンシャル。売れているものには売れているだけの理由が裏付けられている。

 ぶっちゃけ最初に一周した時はそこまで強く印象に残るようなアルバムとは感じることが出来ず、物足りないかなと思ってしまう自分もいたが、何となく聞き続けているうちにじわじわとドツボにハマっていった。好きになる過程の傾向としてはBremenに近いかも知れない 気がつくとこのアルバムを聴いている自分がいる。いつのまにか心に羊が迷い込んでいる。これが米津マジック……

 わりとローテンポでゆったりと、それでいてさりげなく踊らせる曲が多く、聴くときに余計な肩の力がいらない印象がある。しかしそれでいて「Flamingo」や「感電」といった妖しくも愉しいアッパーチューンが良いアクセントになっており、総じてとてもとっつきやすい。YANKEEやBOOTLEGの持っている圧倒的な無敵感を上手い具合に削ぎ落として、その隙間に優しさをそっと詰め込んだようなアルバムとなっている。突出したパラメータはないが全体的にとてもバランスがいい。気兼ねなく誰にでも薦められる1枚。

 個人的一押し曲は「ひまわり」。これはもう何も言うことはない。嗜癖。「爱丽丝」「Neon Sign」「メランコリーキッチン」「しとど晴天大迷惑」あたりと並んで最高に好きな曲が出来てしまった。何回聴いてもこれでテンションが青天井になる。ただ「散弾銃」と「北極星」というワードでwowakaさんを思い浮かべて泣いてしまうのはもう、抗えない性です すまねえ……

 

 

DEMAGOG/キタニタツヤ

 

DEMAGOG(初回限定盤)(特典なし)

DEMAGOG(初回限定盤)(特典なし)

 

 

 個人的に2020年は彼の年である。キタニタツヤのヤバさに気付けたことが今年一番の収穫。そんな彼の渾身のミニアルバムが入らないわけがない。全7曲最高の出来栄えでいよいよ覇者を取りに来た彼の真の姿を見ることの出来る1枚である。いや本当にこのDEMAGOGというミニアルバムはすさまじい。よくぞこれを出してくれたとしか言いようがない。

 以前からぬゆりの曲にベースで参加していたり、ヨルシカのベーシストとして活動していたり、ナナヲアカリちゃんに楽曲提供をしていたり、他にもボカロPとしてバンドマンとしてミュージシャンとして「知る人ぞ知る」みたいな立ち位置でやっていた彼を僕は間違いなく認知はしていたはずなのに、今年に入ってようやくこの人のヤバさに気付いた。遅かった。何にせよDEMAGOGは間違いなく「売れに来てる」ミニアルバムである。その筋のリスナーに向けた殺傷度が高すぎる。全曲めちゃくちゃカッコいい。

 リード曲の「ハイドアンドシーク」から表題曲の「DEMAGOG」までとにかく全編ダークネス。絶望と皮肉が9割を占めている歌詞に、どことなく癖があるけど妖艶なボーカル、そしてずしりと重たくもこれまた中毒性の高い独特のメロディ、フレーズ、サウンド。特に要所要所で挟まれるキメやブレイクがどの曲も非常に気持ちよく、問答無用でリスナーをノせる、魅せる。キタニタツヤ本人がベーシストということも関係があるのかは分からないが、ボーカルも鳴ってる音も癖が強いのにリズムが心地よくスッと聴けてしまう。魔法なのかセンスなのか分からないがすさまじいことだけは分かる。

 こんなアルバム聴かされたら否応にも注目せざるを得ない。配信ライブもめちゃくちゃカッコよかったし、こないだ公開された新曲も今絶賛ヘビロテ中である。来年は今年以上にどこかでぶちかましてくれそうで勝手にワクワクしている。

 個人的一押し曲は迷うところだが「パノプティコン」をチョイス。サビのメロディもだけど何より全編に渡って鳴らされてるアコギのストロークが好み過ぎる。これを弾き語りで歌えたら世界一モテそう。俺なら一発でオチる。

 

 

IS SHE ANYBODY?/春野

 

Is She Anybody? - EP

Is She Anybody? - EP

  • 春野
  • R&B/ソウル
  • ¥1222

 

 なんと上で紹介したDEMAGOGと一緒の発売日である。選考に選考を重ねた結果、まさかの同日に発売された2枚を選ぶこととなってしまった。あのCatcher In The Spyパイセンしかり、8月27日は音楽的に「どうかしている」日なのかもしれない。来年も要注意ですぞ。

 先行配信された「Kidding me」がめちゃくちゃ好みの曲だったので、ミニアルバムが出ると聞いた時はそこそこ過剰なほどの期待を寄せていた記憶があるのだが、いざ蓋を開けてみたら期待を超えるどころか「あ、これはやったわ」と言わんばかりの傑作でもう慄いた。上で挙げた盗作と並んで今年聴きまくったアルバムである。文句のつけようがない。

 これはもうとにかく聴き心地。聴き心地が良すぎる。いつどこで流しても違和感がない。通勤退勤に流してもよし散歩中に流してもよし、寝る前に聴いてもよしともう八面六臂の大活躍。今年に限って言えば母より春野さんの声を聴いていると言っても、流石にそれは過言なんだけど、まあそれくらい聴いた。なにより作業用BGMとしてめちゃくちゃお世話になった。

 環境音楽やlo-fi hiphopほど作業用に特化したわけではないにしても、靄がかかったような打ち込みビートとピアノを主体にしたチルな雰囲気と、春野さん自身の柔らかな歌も相まって、変に作業を邪魔せず、なおかつ耳を退屈もさせずという絶妙な塩梅を叶えてくれるので、本当にお世話になった。1周17分という短さも相まって3周もすれば大体1時間になるので時間管理にも便利でもう言うことがない。何を隠そうこのブログの9月以降の記事は、大体このアルバムを延々とリピートさせながら書いている。CRYAMYの記事もハヌマーンの記事も全部そう。来年もお世話になります。というか今お世話になってます。

 個人的一押し曲は「Wavelet」。トラップビートが最高に気持ちいい。

 

 

Patrick Vegee/UNISON SQUARE GARDEN

 

「Patrick Vegee」(初回限定盤A)[CD+BD]

「Patrick Vegee」(初回限定盤A)[CD+BD]

 

 

 いつもの。なんかもうこなれてきた感がある。出すアルバム出すアルバム毎回傑作なのほんとやめてほしい。

 飛び道具まみれの前作「MODE MOOD MODE」から一転、正統派ロックンロールスタイルに仕上げてきた、みたいなニュアンスの話をDVD特典の映像か何かでしていて、おいお前! それはCatcher In The Spyをボコボコにする宣言か!? 上等だこの野郎かかってこいぶちのめすぞ野菜ごときがァと勇んでいたものの、実際のところ本当に発売日が怖くて仕方なかった。膝超震えてた。

 しかし蓋を開けてみたらCatcher In The Spyのような全方位攻撃性能は鳴りを潜め、その代わりに愛と軽やかさと卓越したスキルを擁しており、Catcher In The Spyとはまた違った魅力を秘めた、ユニゾンの新たな側面を提示する一作に仕上がっていた。過去作のどれともカラーが被っておらず、完全に新境地の1枚となっていて心底ほっとした。上位互換じゃなくて本当によかった。仲良くできそうだ。

 圧倒的な出力のシングル曲3曲を中心に大変な話題を呼んだ「世界はファンシー」に爽快感とノスタルジーが溢れる「夏影テールライト」、攻撃的でスリリングなサウンドが最高な「マーメイドスキャンダラス」と今回も新たなキラーチューンを揃いに揃えており、楽曲に関してはさすがのクオリティ。また今作の特徴としてアルバム全体としての構成が彼らによってガッチリと提示されており、シングル曲の前の曲最後には前振りのようなフレーズが付いている。つよつよな12曲を用いて、これが俺らの考えた最強の構成です、と言わんばかりの怒涛の波状攻撃。つよい。「夏影テールライト」から「弥生町ロンリープラネット」までの流れ大好き。

 全曲本当に聴きごたえのある曲が揃っており、シングル曲もアルバムの流れに添った配置になっていることで、単品で聴いていた時とはまた違った表情を見せている。総じてかなり練りに練られた、鬼才田淵智也の手腕が光るアルバムである。

 ただなー「101回目のプロローグ」を筆頭に、どうも距離感が変わってきたのが少し気になってしまう。コロナ禍によってリスナーとの距離が想定以上に離れてしまったことを気にしているのか知らないが、今まで守っていたソーシャルディスタンスを守っていない。(少なくとも僕にとっては)ちょうどいい温度感ではない。僕は別にユニゾンと仲良しこよしがしたいわけではないので、ここばかりはちょっと違和感を覚えてしまった。最高に良いアルバムってことは違いないんだけど、出来ることならCheap Cheap Endrollみたいな曲で締めてくれればもっと好きになれたかな。

 そういう気になる点はあるにしても、この16年間で養ってきたスキルを最大限にブチかました、彼らの真骨頂と新たなスタンダードを同時に感じさせる鮮烈な1枚となったように思う。いつまでも進化を忘れないロックバンドはやはり格好いい。

 個人的一押し曲は「Hatch I need」。今までのアルバム一曲目の中で一番好き。本当にこれ聴いた瞬間「Catcher In The Spy狂信者としての人生も終わったかもしれない」と思ってしまい、1周するのを次の日に繰り越した思い出がある。あの日の夜は辛かった。

 

 

七転七起/ナナヲアカリ

 

七転七起 (初回生産限定盤B) (CD+DVD) (特典なし)

七転七起 (初回生産限定盤B) (CD+DVD) (特典なし)

 

 

 全く無知の状態から、ということを念頭に置いて考えると、ナナヲアカリちゃんは今年1番ハマったアーティストだと思う。チューリングラブで衝撃を受けてダダダダ天使でドはまりしその勢いで記事まで書いたが、既存の音源含めて彼女の曲をま~聴きに聴きまくった1年だった。その集大成のようなアルバムがリリースされて本当にうれしい。今年4月にリリースされた「マンガみたいな恋人がほしい」の方も相当な回数リピートしたが、やはりフルアルバムの方を選ぶべきだろうということでこちらを挙げさせてもらった。

 前までにリリースしたミニアルバムから相当数の曲を入れているので新鮮味こそ薄いものの、やはり一つ一つの曲の内包された密度、パワーは感嘆の一言。下手すればちょっと濃すぎるんじゃないか、という楽曲陣を特有の気だるげなボーカルで中和し、昇華する彼女の、そして編曲家陣の手腕は本当に見事。アルバムの構成も非の打ちどころがなく、特に5曲目に配置された「ホントのことを言うのなら」がいい仕事をしている。序盤からハイテンションに切り込みまくるこのアルバムに、丁度いい抑揚をもたらしてくれるのだ。さすがの笹川真生編曲。最高。

 ナユタン星人、朝日(石風呂)、煮ル果実、かいりきベア、DECO*27などなどインターネット音楽の最先端を走るクリエイターが惜しむことなく尽力し提供した楽曲の威力はすさまじく、本当に聴き飽きない。毎回思うが、これだけのメンツがそろって一人のシンガーのために曲を作っているのはもう奇蹟のように思う。これからも末永く活動してまだまだ世にバチボコに最高な曲を提供し続けてほしい。来年も全力で応援したい。

 ただな~これはもう僕の我儘なんだけどぜひ「Youth」を入れてほしかった。ナナヲアカリちゃんの歌う曲の中で1・2を争うレベルで好きな曲なので、入ってないと分かった時にはちょっと、いや結構残念だった。ぜひ今度ベスト盤などが出る際はご一考をよろしくお願いいたします。いやマジで。

 個人的一押し曲は「ランダーワンド」。上の「SHIMNEY」の煮ル果実提供の1曲である。「ヒステリーショッパー」もだが今年は本当に煮ル果実が強かった。別アーティストだがTHE  BINARYの「ベクターフィッシュ」とかもめちゃくちゃよくて何度もリピートした。

 

 

millions of oblivion/THE PINBALLS

 

 

 というわけで猛者だらけの2020年を締めくくるのが、我らがロックンローラーであり稀代のストーリーテラー、THE PINBALLSの最新アルバムである。

 ミニアルバムからフルアルバムまでことごとく外さない素晴らしきロックバンドは、今作もブレずに新境地を見せてくれた。それぞれメディアミックスを果たした「ブロードウェイ」「ニードルノット」を含む全10曲、総再生時間33分の相変わらず潔すぎるこのフルアルバムは、今まで通り機知と迫力に富んだゴリゴリのロックンロールを軸にしながらも、今までになかったアプローチも積極的に取り入れており、今までとは一味違ったTHE PINBALLSも味わえる大変贅沢な1枚となっている。

 特にアコースティックギターを意識的に取り入れた「放浪のマチルダ」「惑星の子供たち」あたりは優しく温かな歌詞世界も相まって、彼らの真骨頂を見せられた思いだ。前作のセルフカバーアルバム「Dress up」を通してか、単純な楽曲の構成もメロディも一段と深みが増しているように思う。尖った部分はそのままに、これまで有している表現に新たなエッセンスを違和感なく付加し、表現のふり幅をグッと広げている。

 彼らの魅力の一つである詩的な歌詞は今作も健在で深読みが捗る捗る。もうこのアルバムの歌詞を語るだけで1記事くらい簡単に出来そうなので詳細は省くが、何を食べたらこんなのを思いつくんだと舌を巻いてしまうレベルの極上フレーズが、1曲にいくつもある。また今作は初回盤にvo古川貴之によるポエトリーブックが付属しており、これと一緒に聴くとまた良さが倍増する。限定盤ということもあってここで明記するのは控えるが、本当に付けてくれたことにお礼を言いたい。

 総じて持ち味は殺さずにアプローチの幅を広げ、より幅広い持ち札を獲得した1枚となったように思う。今年の頭に彼らについての記事を書いた際に「2020年が彼らにとって飛躍の1年になりますように」という言葉で締めくくったのだが、このアルバムを聴いてそれが叶ったことを確信した。聴きどころしかない素晴らしいアルバムをありがとう。

 個人的一押し曲は「赤い羊よ眠れ」及び「マーダーピールズ」。これは2曲揃ってこそ真価を発揮するように思うので2曲とも挙げさせてもらった。曲単体で言えばマーダーピールズの方が好み。タイトルの言葉遊び含めてこの2曲の流れが一番好きだった。

 

 

おわりに

 

 というわけで今回は2020年個人的名盤10選と題して、今年聴いた中で特に印象に残ったアルバム10枚をピックアップした。重ね重ねいうが、本当に良いアルバムが多くて選ぶのに難儀した。ここでは紹介できなかったがTHE BINARYの「Jiu」や、空白ごっこの「a little bit」、あとはトーマ改めGyosonの「GONETOWN」なんかも相当な回数リピートしている。このあたりの紹介できなかったアルバムは、また来年にでも記事に出来ればいいかなあと。

 未だ終息の見えない世界的パンデミックにより頭から尻尾まで気が休まらぬ中終わりを迎えようとしている2020年だが、ロックバンドが、ミュージシャンが心を折られない限り、リスナーが聴き続ける限り、音楽は死なないのだということを改めて実感した1年だったように思う。来年はもっと気兼ねなくライブとか行けたらいいですね。

 余談だが今回挙げたアルバム及びアーティストには、Twitterのフォロワーが切っ掛けで知ったものもある。去年もそして今年も、Twitterをやってなかったら一生知らなかっただろうな、という素敵なアーティストを沢山知ることが出来た。音楽博識なフォロワー各位、いつも本当にお世話になってます。この場を借りてお礼申し上げたい。

 

 また来年、今年以上にもっと素敵な音楽に沢山巡り会えますように。