愛の座敷牢

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「おもに」解散したバンドを通じて音楽遍歴を語る記事

 

 数年前、高等教育を終えてから邦楽ロックという曖昧かつ途方もなくだだっ広い界隈にのめり込んでいった身なので、今の邦楽ロックシーンの第一線で活躍しているバンドを知ったのは、もう流行りの波が来てからというのがとても多い。

 

 例えば去年嫌というほど一枚のアルバムに関して語ったUNISON SQUARE GARDENにしてもそうだ。僕が彼らにハマった年が結成10周年だったのだから、僕は彼らの過去を音源でしか知らない。どんなライブをして、どんな苦悩葛藤があって、どんな言葉をどんな思想でどんな形で自身の音を放っていたのか、過去の映像記録や当時のファンや彼らの回想での語りでしか知らない。それ故に俯瞰の形で当時を探り、ルーツを紐解いていく楽しみもあるにはあるが、やはりその当時の空気感や成長、ライブ感を目の当たりに出来なかったもやもやが一切ないと言ったら嘘になる。過ぎてしまった時間はどうしようもないので諦めはつくのだが。

 

 そのバンドのことを好きになればなるほど、その中身を、ルーツを、辿った道筋を知りたくなる。紐解きたくなる。そして紐解いた先に浮かび上がる感情はいつも「もっと早く知ってればな」なのだ。単に無知だったのかそっぽを向いていたのか、そもそもその趣味に至る前のバンドだったのか、それとも本当にどうしようもなかったのか。知らずにいた理由はそれぞれあるけども、虚しいことに変わりはない。過去そのバンドが輝いていた時期の「熱」ほど、焦がれるものも少ないのだ。

 その中でも解散してしまったバンドを好きになってしまった時のどうしようもなさといったらもう言葉にならない。なんてったってもう生で観れないのだ。そのバンドの織り成す歴史に一切立ち入れないのだ。再結成でもしない限り。少し昔の映画で見た俳優が気になって調べたらすでに故人だったとか、そういう耐え難い切なさを抱えながらも、音源は色褪せず素晴らしいので聴き漁り、また無情感だけを募らせてしまう。また好きの気持ちが強くなってしまう。バンドを追っていると、そういう切なさに殴られることがわりとよくある。

 

 ただ解散してもなおリスナーを引き付けるバンドと言うのはやはり相応の魅力があるわけで。バンドを追い始めて数年、そういう歩みを止めてしまったバンドに魅了され刺激され触発され、僕自身の人生の舵取りすら彼らのなすがままに成ってしまった部分も少なからずある。新しい音源が出ないと分かっていても絶えない、止まない、むしろ増し続ける輝き。星の数ほどあるバンドというジャンルの中で鎬を削り、多くの亡骸の募った山を駆け上がり、やがて歩みを辞めてその山の一部となってもなお道を指ししめ続ける彼らに、僕は随分救われてきた気がする。何言ってるか分からなくなってきた。

 というわけでこの記事は今までに僕が触れてきたもうすでに解散しているバンドを紹介するものである。ユニゾン、THE PINBALLS、ともに個別の記事、そして10000字を超えるスーパーなボリュームで紹介してきた当ブログが、いくつかのバンドを一つの記事に纏めて、アツく、エネルギッシュに紹介する。まさに豪気。歩く大盤振舞とは僕のことである。歩く大盤振舞って字面だけみると超ダサい

 ただふつうにバンド名を挙げて「こういうばんどで~す」って紹介するのなんてマジでそんなの素人のブログ読む意味がないので、Wikipediaの「解散したバンドの一覧」みたいなページ見たほうがいいので、というか書いてて面白くないので、どうせならということで今までの人生の音楽遍歴みたいなものを語っていこうと思う。「幼少期編」「小学生編」「中学生編」「高校生編」「短大生編」「社会人編」みたいな感じで。ああそうだとも自分語りだよ。

 20代を折り返すか返さないかくらいの、オタクにもパリピにもいまいちなり切れずやりたいことは多いくせに才能と継続力と行動力はなくて理想とプライドばっかり高くて顔面偏差値が平均以下の「自称邦楽ロック好き」というところにしか自分の属性を見いだせない男の琴線にフェザータッチするような記事になると思う。書いてて死にたくなってきたな

 

 というわけで前置きはここまで。以下本文

 

 

【幼少期編】

 

 母親の長い産道を抜けるとそこはジャパメタだった。

 

 いきなり何の話かというと僕の母はX JAPANのファンだったのだ。そのなかでも、いやX JAPANというかそのギタリスト、HIDEこと松本秀人の熱狂的ファンだった。後々に聞いたことだがブランキーとかも好きだったらしい。母の友人にはベンジーのセフレがいたそうだ。詳しい真偽は知らないがもしほんとなら嫌だなそれ。

 物心ついたときには狭苦しいアパートの中で、ビデオデッキから重ためのギターとバチバチのドラムがせっせとセッションをしていた。意味の分からない言葉を羅列した歌を咀嚼もせずに呑み込んでいた。車の中でもどこでもHIDE,HIDE,HIDEのHIDE祭り。母から「おまえはHIDEの生まれ変わりだ」と半ば洗脳じみた言葉を受けながらおもちゃのギターをかき鳴らす僕は、順当に育てば米津玄師すらも超えるスーパー天才ミュージシャンとして世を席巻していたと思うのだけど、どこで間違えたのだろうかと今でも考えている。ピアノでも習えばよかったのにね

 残念なことに僕が2歳か3歳のころにHIDEはこの世を去ってしまったんだけど、僕の音楽遍歴を語るうえで絶対に外せない存在になるのがこのHIDEである。X JAPANよりも彼のソロ名義での曲を聴いていた時間の方が圧倒的に長い。おそらくだけど僕が生まれて初めて「カッコいい」と認識したアーティストは彼だと思うし、20年経った今でも色褪せることなくカッコいいと思ってる。彼が今まで生きてたらロックシーンはどうなってたんだろうな、と考えると悔しい気持ちでいっぱいになる。いきなりバンドでも解散でもなんでもなくソロの紹介で申し訳ないけど許して

 

 

 今よりずっと水分含有量も多くて世間様から向けられる目も優しく希望しか詰まっていない、果てしなく清らかな、清らかだった僕が、みんなのうたより流行りの歌より、スーパー戦隊より仮面ライダーより夢中になったのが彼だったのだ。血液が、本能が求めていたかのように、食らいつくように聴いていたらしい。今でもHIDEの曲に関しては母より僕のが詳しいのでその熱意は相当だったのだと思う。余談も余談だけどこの「spread beaver」はエッチなスラングらしい。生まれたての赤んぼうに聴かせるようなアーティストか? 

 ちなみに父は矢沢永吉の大ファン。音楽的影響は蚊ほども受けてない。

 

 

【小学生編】

 

 まあバンドなんてほとんど聴いてなかったね。じゃあいるのか? ここの項目

 というかこの時期は、自分の時間を音楽に割くということがあまりなかったように思う。音楽をあまり聴かないということは友達とよく遊ぶということである(?)この時期は音楽よりデュエマ、ロックンロールよりポケモンだった。今でもポケモンは好きだけど。この時期は友達多くてたのしかったな、親の金盗んでカード買ってボコボコにされるクソガキでした。

 ただまぁまったく聴いてなかったかと言えばそれは違って、流行りの曲やMステで気になったアーティストはちまちまと聴いていたような気がする。

 代表的なのがORANGE RANGERIP SLYMEである。この頃から早くてノリのいい曲を好む傾向というのはなんとなく出来ていたように思う。とにかくバラードが暇で聴けなかった。じれったかった。今でもバラードは歌メロに惹かれないとなかなか通して聴けなかったりする。BPM100以下は田舎道で法定速度を遵守するおばあちゃんくらいのじれったさ。

 他に聴いてたアーティストといえばKAT-TUNとか嵐といったあの辺のジャニーズと、ファンキーモンキーな人たちと、あとは湘南乃風とかも聴いてたかな。ここらへんの嗜好をブレさせずに順当に育っておけば今でもLINEの友達が100人とか超えてたんじゃないか。腹筋とか1000個くらいに割れて誕生日にホールケーキに頭突っ込んでみんなで大爆笑、みたいなパリピな人間になれたんじゃないか。誕生日に来るLINEが従兄弟だけとかいう悲しすぎる現状をぶち壊せていたのではないか。せつねえ〜

 

 まぁでも小学生時代によく聴いてて解散した人達っていうのは思い当たらないのでこの項目はいらなかったかもね 

 

 

【中学生編】

 

 バンドはおろか日本の音楽はダサいと突っぱねる期に突入していた。

 

 いやあの冗談ではないんですよ。

 僕が中学生の時、2008年から2010年あたりの日本の音楽シーンってどんなだったかって、AKBとジャニーズでオリコンランキングが埋まってた時期で。握手券商法、ランダム写真封入、投票券商法、同一シングルの複数バージョン販売商法エトセトラエトセトラ、とにかく音楽を音楽以外の部分で売りつけるのが正義だったこの時代はもうほんとに、ほんっとに音楽番組が面白くなくて。特にAKB。今はどうか知らないけど、僕はこの人たちへの苦手意識が未だにあります

 YouTubeで新しい音楽を探すとかそういうテクニックにも疎かったもんだから、テレビには出すとも活躍するかっこいいアーティストを探す、みたいなことは微塵もなく、ただ日本の音楽は終わった、みたいな言論をろくに調べもせず鵜呑みにしてクソだクソだと管を巻く中学生だったんですよ 殴りたい

 じゃあそんな僕はどんな音楽を聴いてたかというとですね

 

 

 ほぼK-POPでした。

 中学一年生のころはまだ湘南乃風とかGReeeeNとか聴いてたんだけど、湘南乃風はふつうになんかめっちゃダサく感じるようになって、ていうかマジでクラスのヤンキーとおんなじの聴いてるって事実が嫌すぎて聴かなくなって、GReeeeNは3rdの塩、コショウが当時の僕にとってめちゃ微妙で聴かなくなって、ここあたりから加速度的に「日本の音楽はクソ」期に突入していったように思う。もったいね~

 ただこの時期から聴き始めたSOUL'D OUTなる天才集団は今でも聴いている。ふしぎ。彼らも解散してしまったね。

 

 そしてこのころ、東方神起とかを皮切りにK-POPブームが巻き起こるようになって、僕は自然とそっちに流れていった。母が韓流ブームにどっぷりつかり、家のテレビが韓国一色になったのも影響としては大きかったように思う。

 東方神起、KARA、superjunior、超新星(現SUPERNOVA)、2PMなどといった、ルックスとスタイルとキレキレのダンスを兼ね備えた彼らに僕はかなり夢中になり、当時は相当聴きこんでいた。曲もカッコいいしね、今聴いても。

 当時の地上波で流れていた、愛の恋のぐんずほぐれつ、好きな人からメールが来ないイエーイ、一生一緒にいようぜMy Cinderellaみたいな、ちょっと賢いチンパンジーがタイプライターで鼻くそほじりながら打ち込んだような低俗な歌詞に脳をやられつつあった僕は、とにかくもう恋愛詞だせえ、というか日本語がだせえ、なにがあはれだ憐れだよお前は、と耳をふさぐようになったのだ。たかが10年と少ししか生きてない分際で何を言ってるんだろう。

 だからK-POPに関しても、アーティストがダサい日本語詞で歌ってるのはあんまり好まず、YouTubeに上がっている韓国語詞のものばかり聴いてた。とにかくどのグループもルックスもファッションもダンスも超カッコよくてほれぼれした。その中でもひときわのめり込んで聴いていたのが

 

 

 BIGBANGと2NE1の二組である。

 この二組はYGエンターテインメントという韓国の芸能事務所発のグループで、そのなかでも突出して知名度のあるグループである。YGから出た他の有名な人と言えばかの有名な江南スタイルのPSYがいるけど、まあ、あれは、ジャンルが違うので……

 2NE1もめちゃかっこいいけど快感覚えた猿のごとく聴きこんでたのはBIGBANGの方。癖のある声とラップ、息の合ったダンス、強めのサビとお洒落なビート。何言ってるか分からない韓国語の歌詞を覚えてしまうほどに聴きこんだ。初めてライブと言うものに参加したのも彼らである。1年だけファンクラブにも入っていた。

 そのなかでもとくに好きな一曲が、厳密に言えばBIGBANGじゃないんだけど

 

 

 今聴いてもバッチバチにかっこいい。10年前の曲だぜこれ。信じられない。

 これはBIGBANGのリーダーG-DRAGONのソロ曲なんだけどもうほんとにマジで余すとこなく全部かっこいい。天才の曲。こんなもん今初めて聴いたってのめりこむ自信があるね。この曲が入ってるHeartbreakerってアルバムは捨て曲一切なしの超名盤なのでぜひ聴いてほしい。CDは多分TSUTAYAにいけばあるよ。サブスクもある

 

 韓国のアイドルグループは昨今のKARAの子の自殺の問題とか、ちょっと前のBIGBANGのVI脱退のいざこざとか、わりといろいろ荒れることも多い。僕が懇意にしてた2NE1も麻薬がらみで一度騒動が起きたし、うえで書いたG-DRAGONにしてもそう。すぐに新しいグループがぽこぽこ出てくるので流行りのサイクルも滅茶苦茶に早い。とくに男性グループは兵役の関係で、一定の年齢を過ぎると活動休止を余儀なくされる。僕が良く聴いてたグループで当時のメンバー、原型を保っているグループなんて一つもない。

 それでも彼らの音楽に掛ける熱意は本物だし、そのクオリティはどの時代も圧倒的というのは嘘じゃない。今聴いても間違いなくカッコいいもん。

 日本の音楽に幻滅してた時期、彼らがいなかったら今まで聴き続けるなんてことも恐らくなかったのを考えると、彼らは僕の音楽を救ってくれた恩人でもあるし、間違いなく青春を共にしたかけがえのない大切なもののひとつである。ここだけ切り取ると凡庸なJ-POPぽくて虫唾がはしるね。かけがえのない(笑) 大切なもの(笑)

 

 

 で、僕の中学時代はほとんどこのK-POPにどっぷりつかって幕を閉じ……る前に、二つ変革が起きる。他でもなく、音楽の変革が二つ。一つでも十分なのにふたつ。ご精が出ますなあ

 

 一つはニコニコ動画にてその時期とても話題になっていた「ハイポーション作ってみた。」なる動画。本家が消えてるので紹介が出来ないのがちょっと残念だが、YouTubeに怪しい転載動画がたくさん上がってるので観ることは出来る(観ろとは言わない) 内容をかいつまんで言うと、EDに悩む馬が最強の精力剤を作るためにドラッグストアの精力剤を全部混ぜて飲んでゲロを吐く動画である。

 「ニコニコ馬鹿四天王」「クッキングバカ」「嘔吐魔法」などといった散々なあだ名で呼ばれている我等が(?)馬犬氏の動画である。僕らが中学生のころアホみたいに大流行りした。おもしろフラッシュ、からのニコニコ動画のコンボでパソコンに中途半端に興味を持ったせいで僕は人生を棒に振ったので憎んでる。

 近年ははじめちゃちょーあたりがいろんなラーメンやジュースを混ぜて食べて飲んで微妙なリアクションする動画を上げて人気を博しているようだが元祖は(たぶん)この人。調べたら今Vtuberやってるんだって。時代や

 で、なんでそんな時代を風靡したイロモノうp主(この表記なつかしい)の名前を挙げたのかと言うと、この人のハイポーションシリーズの2作目だが3作目だがにこんな曲が使われていたのだけど

 

 

  12年前……? 何かの冗談だと言ってほしい

 はいきました。ここからですどっぷりと邦楽にのめり込むのは。

 泣く子も踊る俺たちのボーカロイドとの初めての邂逅は、よくわからない馬がゲテモノ料理をする動画だったのは正しい出会いかって言われれば絶対違うけど、当時の友達が「ボカロってやべえやつがあってね……」と薬物か何かを勧めるようにきったねえウォークマンを差し出してくるたびに「いや日本の音楽はクソだから」と聴かずに突っぱねていた僕が正しい出会いなんて出来るわけないのでまあ。聴かず嫌いの上に強情張りだったからね、そりゃもう駄目だね。

 なんだこの曲結構いいな、と思ってコメント欄を頼りに調べて即座に気に入り、そこからいろいろ聴き漁り始め、歌い手にも手を出し始めたが運の尽き、そこから転がり落ちるようにバンドの方に聴覚が傾いていく。

 そしてこのロックンロールに引きずり込む魔の手その2が

 

 

 友達がブログにライブに行ったことを書いてたのが切っ掛けだったかな。

 そうご存じRADWIMPS。同級生が細々と聴いてたバンプアジカンエルレもそこまでのめり込まなかった僕だが、ラッドだけはなぜかハマってしまった。ここからだ、ここまでは前座である。K-POP? 日本版の歌詞が許容できないレベルでダサいから飽きたね!! なんだよ僕ちゃんはPERFECTって!! 俺のGDにクソみたいな歌詞を提供すんな歌詞カード尻に詰まらせて腸閉塞で死ね三流

 中学卒業直前の2つの変革によって僕の音楽嗜好はごりごりと変わっていき、ここから邦楽にのめり込んでいくわけです。タイトルで言えばここまでが前座なのですが、あまりに長くなったのでタイトルに「おもに」をつけました。これで嘘はついてない。「おもに」だからセーフ。

 

 

 【高校生編】

 

 というわけで長かった、ここから僕が邦楽ロックを少しずつ聴き始めることになる。解散したバンドの紹介もここからですほんとすいません。

 

 とはいっても高校時代にメインに聴いてたのはあくまでボカロとアニソンであり、邦楽ロックは二の次だった。友達の影響でラッドとワンオクは聴いてたけど、かなり長い間そればかり聴いてた気がする。卍ラッド卍ワンオク卍最高卍みたいなことを、モバゲーとかのプロフに恥ずかしげもなく記す系の高校生だった。日本の音楽はクソだと言ってた中学時代からこの変貌ぶり。手のひらの回転が速過ぎて発電できそう。

 あとこのころから東京事変及び椎名林檎も聴き始めた。iTunesになんでか知らないけど「教育」が入ってたのがきっかけだった。友達の影響もあってacid black cherryとかも聴いてたけどあれはまあ、若さゆえのあれみたいなものですぐに冷めた。いやかっこいいけど、聴く資格が要る音楽なので……

 基本ボカロ、あとはラッドとワンオク、気が向いたらその他みたいな嗜好がわりと長い期間続いて、その中でなんかラッドのYouTubeのコメント欄がキモくて嫌になったりとかしてボカロ一辺倒になってきて、ここから歌い手にも手を出し始める。で、そんな歌い手がカバーしている曲を聴いて知ったバンドが2つ。一つ目はこれ、椿屋四重奏

 

 

 いうことがない。かっこよすぎて。

 妖艶、凄絶、艶美、そういうアダルトな単語をすべて結集しても形容しきれないほどの、説明できないカッコよさ。未だにこの、俗的な表現をするなら「エロカッコよさ」とでもいうべきか、そういう方向性でここまでの佇まいクオリティを維持しているバンドは他にない。歌い手のカバーで知って、興味本位で本家を聴いた時の衝撃は今でも色褪せずに残っている。

 何もかも異質すぎるのでわざわざその独自性を特筆する必要もないのではとおもうのだが、とにかく僕は中田裕二の声が好き。綺麗なのにねちっこい、圧がすごいのにどこか儚くて危なっかしい、そんな歪さ、二律背反を擁しながらもしっかりロックバンドのボーカルにふさわしい声。カリスマと言うほかない。

 げえーカッコイイなにこれ!! と初聴から鼓膜を吹き飛ばされて近所のレンタルショップにて「深紅なる肖像」をレンタルし、あれよあれよと椿屋にハマっていくことになった。

 当時もだが、僕は未だに椿屋時代の中田裕二を邦楽ロック界隈史上最高のイケメンだと思っている。髪型を真似してあまりの差に心を折られた経験がある。出身県が同じとは思えない。パーツ分けてほしい。

 知った瞬間にはすでに解散していたバンドでまあむせび泣いた。現在の中田裕二ソロでの曲も当たり前に好きだけど、やはり椿屋時代の曲への思い入れの方が強い。今でもめちゃくちゃ聴いてるバンドです。おすすめ。手放しでおすすめ。聴き込んでもうライブが見れないことに絶望してくれ

 

 

  そんでもう一つ。FACT

 

 

 某オオカミバンドとか、前のパスピエとか、顔隠してる(してた)バンドって今でも一定数いるけど、僕の中での元祖お顔隠しバンドはこれだった。ぶっちゃけ上記の椿屋ほどのめり込んで聴いてたバンドかと言われるとちょっと劣るけど、それでも当時の僕にとっては、めちゃくちゃ革新的でカッコいい音楽だったのは一切間違いない。

 英歌詞、やたらめったら速いテンポ、仮面、なんかいろいろ混じっているのにまとまった音楽性。人気絶頂の時に解散したと噂のロックバンドである。あまりにも説明が出来ないのでWikipedia先生に頼ろうと思って検索したらもっと余計に分からなくなった。日本語でしゃべってほしい。とにかくもう激しめでいろいろ混じってる音楽性の覆面バンドだと思ってもらえれば。

 こんなバンドが売れる土壌もちゃんとあるんだ、と感動した記憶がある。バンド名を冠したアルバム「FACT」は当時結構ヘビロテしていた。

 僕が高校の時はまだ現役で、いつかライブに行きたいなーとか漠然と思ってたんだけど、ライブに自由に行けるお金を得るころには解散していた。さみしいなーと思いつつも、そのころにはすでに違うバンドにお熱だったのでそこまで残念にも思わなかったのが薄情なとこである。

 根っこから大好き! ってバンドでは無かったけど、自分の音楽の聴く幅をがっつり広げてくれたバンドではあるから、そういう点でも思い入れは結構あった。

 

 歌い手きっかけと言う正しいのか正しくないのか分からんルートで知ってしまったこの二組のバンドをきっかけに、僕は邦楽ロックというものを見直し始めることになる。ただなぜか、YouTubeで知らないバンドを掘り起こそうという気分にはならず、手の届く範囲の音楽を繰り返し聴いている時期が、これまた結構長く続いた。

 

 しかしまあそんな感じで保守的に音楽を聴いている僕にも届いてしまう音楽というのがやっぱりちょいちょい出てくるわけで、次はこんなのにハマることになる。

 

 

 さすがに時代を感じる。

 YouTubeとにらめっこしつつ、記憶をたどりながら書いているのだが懐かし過ぎて泣けてきてしまった。知る人ぞ知るバンド……ではなく正確には男性二人による音楽ユニットSURFACEである。これは友達経由で知った。ていうか今調べたら再結成してるんだって。許可なく再結成とかやめてくれ。しょうがないからここでは解散したとして話させてほしい。

 正統派にカッコイイギターと、男らしさも色気もありつつ聴き心地も100点満点のハイトーンボイスが特徴である。アニソンをいくつか手掛けていたこともあってか曲調の耳馴染みが良く、Bで落としてサビで盛り上げるお得意パターンがメチャメチャ上手くてとっつきやすかった。メリハリがはっきりしてて歌っててとても楽しい曲が多く、今でも「さぁ」とか「それじゃあバイバイ」はカラオケでよく歌う。

 歌詞はまあ割と直情的でそこまでひねりもない恋愛詞が多いけど、時折ぶっすりと刺してくるようなフレーズも持ってくるからなかなかに侮りがたい。上で挙げた「なにしてんの」は合宿免許を取っているとき、マニュアル車の運転に絶望しながら合宿寮にてよく聴いていたのだがとてもお世話になった。

 ボーカル椎名のソロ名義の曲はあまり馴染まずそこまで聴かなかったのだけど、SURFACE自体は相当に聴きこんだ。今現在までに聴いたアルバムで10枚個人的名盤を選ぶとすれば、間違いなく彼らの1st「Phase」は入る。捨て曲無し、会心の1枚である。聴いて合わなかったらTwitterのDMにて苦情を受け付けてます。

 

 そんなこんなで邦楽ロックと言う界隈に片足突っ込みながらも基本的にはニコニコ発アーティスト一辺倒、米津玄師も頭角を示し始めたのだからなおさらのこと。高校時代を通じて新しいものを知る中で次第にラッドもワンオクもあまり聴かなくなり、ワンオクに関しては「前のが良かった」と古参ぶる始末である。君はTAKAの何を知ってるんだ。でも今でもワンオクに関しては「残響リファレンス」が一番好き。

 ちなみにラッドは「絶体絶命」が一番好き。億万笑者は名曲。

 

 

【短大生編】

 

 そんなこんなで高校を卒業、短大に入学。めちゃくちゃな難易度の数学と専門科目に四苦八苦する中でやはり音楽は何だかんだ聴き続けるもクラスでは孤立しぼっちになり、割と毎日死にたいなあとぼやぼや思う毎日を過ごす中で、ふとフレデリックのオドループを聴いた日から加速度的に邦楽ロック界隈に身を沈めていくことになる。僕が毎年何万も音楽に費やす羽目になった元凶はフレデリックです。

 

 

 なんで一億再生超えてないの?

 ダンスビート全盛の時代、KANA-BOONを筆頭にとにかく速いBPMとダンスビート、耳に残るフレーズと繰り返す歌詞が特徴の、中毒性に特化した曲が良くも悪くも乱造されていた時代に僕はこの界隈にのめり込み、コロッとその類にコロリとやられて二十歳前にして痛々しいことに「ライブキッズ」のような人種になっていた。今思い出すだけであの一時期の熱を殺したくなる。でも今でも四つ打ちに弱い……四つ打ちはいい文化…… 

 ただSNSや各種音楽サイトを眺めているうちに、なんだろうな、友達がたーくさんいて彼女だっているくせに「ぼっちですw」とか言ってやたらと誰かとつながりたがるあの独特なコミュニティに違和感を覚えたというか、初めて地元のサーキットに行った時もなんか、なんかあの一体感というか空気が合わず、終いにはブルエンのライブ中にダイブしてきた人に思いっきり側頭部を蹴られたりして、冷めて離れてしまった。あの人種になれたら今頃インスタグラムでハッシュタグ山盛りの投稿とかしてたんだろうな。

 ちなみにフレデリックはいまだにめっちゃ好き。それとこれは別。

 

「掘り方を間違えたんだな」と考えて、YouTubeの関連動画からいろいろ聴いてみるのではなく、その当時好きになったバンドの「ルーツ」、つまり自分の好きなバンドが影響を受けたバンドを掘り出すことにしたのだ。改めて考えると自分からすでに解散してるバンドを掘りに行ってだからドМとしか思えない。

 そんなわけでついに彼らとの邂逅を果たすわけだ

 

 

 好きすぎて何を語ればいいか分からん。

 踊る文系男子である俺たちのすべて、ハヌマーンである。本当はハヌマーンに行きつく前にナンバーガールとの出会いがあったんだけど、ナンバガは再結成してしまったので説明を省く。僕がスリーピースバンド信者になった切っ掛けのバンドであり、テレキャスター大正義マンになった切っ掛けのバンドであり、これから聴くべき音楽の方向性をガッツリと定められた、つまるところ僕の嗜好の塊のようなバンドである。

 語るとこ語っているとそれだけで記事が量産できてしまうので良い感じに省くが、超の付く鋭角サウンド、タイトな演奏、鬼のような歌メロの良さと曲構成の秀逸さ、文学的かつ厭世的なセンス抜群の歌詞、パフォーマンスのカッコよさ。何もかも100点では足りない。最強のバンドである。この世にはハヌマーンハヌマーン以外の2種類のバンドしかいない。山田亮一のせいで僕は一時期馬鹿みたいに前髪を伸ばしていたし、山田亮一のせいで中島らもを読み始めた。

 バンドをたたえる言葉は世の中にいくらでもあるが、これほど「最強」が似合うバンドもない。オタクは弱いので最強とか神とか強い言葉を軽率に使いがちだが、これから「最強」という文言を使う際は、語尾に「ただしハヌマーンを除く」の一文を付けることを義務にすべきである。

 どれを聴けばいいって、出てる曲全部いいから全部マストヒア、マストリッスンマストバイ(五・七・五)だが、しいて言うなら、本当にしいて言うなら、僕の独断と偏見でRE:DISTORTIONをおすすめしたい。7曲(ボーナス含めて8?)一切捨て無し。これ1枚だけでご飯は5リットルは食える。記事三本は書ける(書かない)。邦楽ロック史に燦然と輝き続ける至高の1枚である。義務教育は国語算数理科社会英語、RE:DISTORTION

 これから先どんなバンドを知ろうともこのバンドを超える衝撃はおそらくほとんどないと思うし、同時にこのバンドほど解散した後に知ったことを悔やむバンドもないと思う。解散理由はまあ、調べればそれらしいのが出てくるから見ればいいよ

 ハヌマーン解散後の現在、3人はそれぞれ違うバンドに属しており、変わらずカッコイイ音楽を鳴らしている。ただ、もしも奇蹟があれば、再結成した彼らの演奏を生で観たいなあ、と思うのは我儘だろうか。

 

 そんなわけでハヌマーンにドはまりしてそればっか聞きながら、これは生涯付き合えるバンドを見つけてしまったな、これ以外にもう何もいらないな、やってしまったな……と思っていたら今度はこういうバンドを知ることになる。世界は広いが日本も想像以上に広い。

 

 

 なんで解散したんだ教えてくれ小山田

 ご存じandymoriである。これまたやべえスリーピースバンド。ハヌマーンandymoriの音源を全部揃えたら聴覚に関しては一生退屈しないのでとりあえず出てる音源全部買おう。ハヌマーンはプレミアついてめっちゃ高いけど。

 突き詰め突き抜けたシンプルさとその裏に擁する技巧、ポップでクリーンな曲調と小山田のとっつきやすく聴きやすい声。とにかく聴きやすく曲が良くノリがいい。小山田壮平もめちゃくちゃいいギターボーカルなんですよ。ほんっとにカッコイイ。さっきからカッコイイしか言ってない。鳴き声かな?

 素人耳にも分かるくらいドラムが暴れていて超かっこいい。特に初期の音源は顕著である。とにかく手数が多くてオソロシイ。andymoriのドラムに生まれ変わったら早死にしそう。

 TSUTAYAで当時4枚借りると1000円になるサービスをやってて、3枚までは決めたけど後一枚が決まらないって時に、NEVERまとめかなんかの「おすすめアーティスト」みたいな記事から見つけてCDを借りたのが出会いのきっかけだった。検索妨害サイトと名高いあいつもたまには役に立つ。その節はありがとう、もう要は無いから深層webに引っ越してどうぞ。

 解散した翌年に知るという悲劇な出会いだった。思い出しても泣きたくなる。解散当時は小山田がドラッグをやったり飛び降りたりといろいろやったらしいが、今からそれを詮索してもなんにもならないからここでは語らないでおく。

 これまた出てるアルバム全部いいけど、僕はやっぱり「ファンファーレと熱狂」が好き。これまた随分聞き込んだアルバムである。今andymoriの元メンバーは新しいバンドである「AL」を結成して不定期に活動している。これまためっちゃいいのでこっちもぜひ。最近音沙汰ないけど。

 余談だが今をきらめくシンガーソングライターあいみょんandymoriのファンだというのだからこの際あいみょんファンは全員聴くべき。僕はもともとあいみょんそんなに真面目に聴いてなかったけど、andymoriのファンってだけでいい人ってのが分かる。andymoriを好んで聴いているって公言するだけで人間的魅力がめっちゃ増すので就活とかにおすすめ。

 

 こうしてやべえバンドを二つも知ってしまった僕は、これとその当時から好きになったGRAPEVINEやらsyrup16gやら、ちょっと前世代のバンドをよく聴くようになる。改めて考えるとこの時期に出会ったバンドが今の僕を形成してると言っても過言ではない。これプラス米津玄師にヒトリエやらアルカラやらフレデリックやら、そしてユニゾンやらを聴いて盤石な布陣が完成しつつあった。みてこのラインナップ。センスのかたまりかな? 

 この鉄壁の布陣に切り込んでくるバンドなんてもういないだろう、ましてや前世代のバンドなんてもう聴きつくしたようなもの――――

 

 

 伏兵なんていくらでもいるのだ。何をどう思って聴きつくしたとか言ってんだ

 この記事では初めての女性ボーカルバンドの紹介となる。school food punishment。センスとお洒落の塊にバンドスタイルとエレクトロニカをぶち込んだ、いわゆるオタクのすきな奴である。僕? めっちゃ好き。今でいうとlicalとかvivid undressとかも、すき。

 聴けばわかるけどとにかく一曲の情報量が多い。ロックを漁る若人も、ボカロ畑の味の濃い音楽に慣れ親しんだ学生諸君もニッコリの音楽である。今は米津玄師やら須田景凪やらヨルシカやら、ボカロとともに青春を歩んだ人をそのまま邦楽沼に叩き落すエスカレーターががっつりと建設されているが、今も続いていればschool food punishmentはその道しるべ、とっかかり、ニコ厨を邦楽ロック沼に落とす装置になる音楽だったのではと思う。そういう意味では早すぎたバンドだったのかな。

 バンドだけどギターの主張が弱いのが特徴。代わりに主軸のメロディはピアノが担っている。ゆえにバンド特有の焦燥感、滾る感じはそこまで強くないが、その分洗練され、かっちりとハマっている印象がある。ピアノの主張が強かろうと細めの女性ボーカルだろうと芯の通ったバンドだというのが分かる。しっかりしてる

 とにかくベースが上手い。マジで上手い。派手なことをしてないのに素人でもヤバいのがわかるベース。イヤホンでもなんでもいいから一回聞いてほしい。山崎英明は本当にすごいベーシストである。

 この時期はあまりストリングスとかピアノとか好きではなく、バンドは愚直であるべきだと信じてやまない自分がいたので、今でいうミセスとか、セカオワとか、そういうギターベースドラム以外の楽器が入ったバンドをなんとなく軽んじていたのだが(GRAPEVINEは例外)、こういうバンドとの出会いがそれを氷解していったようなきがする、みたいな話をユニゾンの記事の時にもしてたな

 ハヌマーンandymoriほど聴きこんだバンドではないにせよ、これまた自分の思慮の浅さと世界の広さを痛感させられた革新的な音楽であることは間違いない。これまたマストバイ

 

 そしてこのころ出会ったバンドがもう一つ。KEYTALKから知ったことを古参ファンは怒るのだろうかと戦々恐々としているがここは正直に書こうと思う。これまたやべえバンドである。さっきからヤバいだのカッコいいだのそういうことしか言ってない。

 

 

 the cabs。説明不要、多くの狂信者を産んだ魔性のロックバンドである。

 この人たちがまだこの形態で音を鳴らしてたら、新しい音源を出していたら、ファンの規模を拡大していたら、今の邦楽シーンはどうなってたんだろうと考えると、背筋にひんやりとしたものが走る。そうなってほしかったような、そうならなくてよかったような。雑多なメインシーンで鳴り響くにはあまりに美しく、そして同じくらいおそろしい音楽である。

 KEYTALKに興味を持ったころ、KEYTALKwikipediaを見て知った。初めて聴いた曲はキェルツェの螺旋だったように思う。2分ちょっとのプレイタイムですべてをぶっ壊されたような気さえした。こんなバンドがそこまで遠くない過去にて実際に音を鳴らし、存在していたことが、にわかには信じがたかった。同時に支持を得ていたことも。

  どこでノればいいのかもいまいちわからない無茶苦茶なリズムとそれを成立させる各々のスキル、のなかで異質に響く首藤のハイトーンボイス。それらが精巧な歯車の様にかみ合っている。とにかく鳴る音と音の隙間に酔いしれる。音楽はなんでもかんでも詰め込みまくることが正義ではないと教わったバンドである。

 頭がいい奴が脳味噌のねじを自ら投げ捨てて狂気と並走しようとアイデアを捻り出しているような、不完全なまま脳から漏出した解析できない情報を言語と音楽という名のフィルターを通してギリギリ具象化しているかのような、ほんとうに「やりたいからやっている」ような音楽である。気持ちよさに型はなく、美しさに決まりはなく、狂気に理屈は無い。考えてみれば当たり前のことをこれでもかと痛感させられる。

 出している音源全てをとりあえず聞いてはいるが、未だにその全てを知った気になれない。たまに思い出したように彼らのアルバムを聴くたびに新しい発見と衝撃がある。初聴時の理不尽なまでのインパクトに紛れ込んでしまう、執拗にまで裏付けされた、脳髄に焼けつくような美学。聴けば聴くほど深みにはまってしまう音楽である。

 今は三人が三人とも別々の道を歩み、それぞれが活躍している。このバンドもいつか再結成とか、無いかなとか思ってしまう。100人中100人が「カッコいい」という音楽はこの世に溢れてるかもしれないけど、100人のうち2,3人が、これを聴くために今まで生きてきたのかと思えるほど、偏執なまでに美しい音楽は少ないと思うのだ。the cabsはこれからさきもずっとそんなバンドであり続ける気がする。これはすっごくどうでもいい話なんだけど、凛として時雨、the cabs、9㎜あたりで青春を過ごした人、マジで人格形成に深刻な影響を受けてそうで笑える。笑えない。残響系は怖い

 

 と言うわけで以上短大生編でした。濃い。濃すぎる。

 二年間でどんだけ濃い音楽体験と悲壮を味わっているんだと自分で書いてて眩暈がしてくる。だれともほぼ話さず関わらず一人でただひたすら知らない音楽と向き合って、目を覚ましている時間ほぼすべてを音楽を聴くことに費やしていたのだから無理もない。2年生に上がったらちょっとは友達が出来たので安心してほしい。

 この時期に有名どころは一通り聴いた気でいるし、ここでは紹介してない解散したバンドもそこそこあるけど、その中でも特に聴きこんだものを紹介している。何度もいうけどこの時期に聴いた音楽がマジで強い。ほんっとに強い。嗜好がここでガッチガチに固まった。今好きな音楽の大半は短大生のころに聴き始めた音楽である。

 お陰で人生楽しいです。聴覚に関しては。

 

 

【社会人編】

 

 ブラック企業に入って心を折られました。

 

 月間残業時間100時間超えなんて序の口、徹夜上等、残業代未払い常連、機能しない社内メンタルケア、過剰なまでのトップダウン体制に田舎特有の縦社会、クソ客先の異常なまでの短納期。すべてがクソオブクソ。社食もマズかった。あの会社の社長はなるべく苦しんで死んでほしい。当時の上司も割りばしが綺麗に割れなかったり座ってる椅子が予兆なく壊れたり仕事のミスが頻発したり奥さんが浮気したり子供が非行に走ったり事故ったり詐欺に遭ったりEDになったりして心身ともぼろっぼろに疲れ果てた末に贖罪として僕の口座に全財産振り込んで死んでほしい。

 ためにならないアドバイスを一つ。来年から地方の中小に努める学生諸君に一個教えときたい。タバコは吸っとけ。喫煙所をうまく使え。百害あっても一利がわりとデカい。人間関係がグッと楽になる(もちろんこれは皮肉です) あとヤバいと思ったらさっさと辞めろ。今時社員に強気な会社は流行らない。

 

 そんなだから救いを求めるために必然的に音楽への依存度が高くなるわけで。このころはSNSもやってなかったので(小説を書くサイトに入り浸ってはいた)、今みたいに誰かとネット上で音楽の話が出来る、なんてこともなく、ただひたすらに自分の趣味を煮詰めていた。だから短大の頃と比べて、新たに好きになったみたいなバンドは少ない。ハヌマーン「幸福のしっぽ」、UNISON SQUARE GARDEN「黄昏インザスパイ」、バズマザーズ「吃音症」「ナイトクライヌードルベンダー」あたりが無かったら僕はおそらく首を吊ってた。その説はどうもお世話になりました。でも君らを聴くと前の職場思い出して死にたくなるんだよな……

 だからぶっちゃけ社会人編はなあなあで流してもよかったかな、と思ったんだけど、どうしても紹介したいバンドがいるのでもう一組だけ紹介して終わることにする。ここで紹介するバンドの中で唯一、解散にリアルタイムで対面し、初めてその絶望を味わったバンドである。

 

 

 フィッシュライフ。知る人ぞ知る大阪発のスリーピースバンドである。

 知る人ぞ知るって言っても、あの超激戦区と(僕の中で)有名な閃光ライオット2013にてグランプリを獲得したスーパーバンドなのでまあほとんど義務教育。聴いてないなら今すぐ聴け、な

 フロントマンのハヤシングがハヌマーン好きを公言してるだけあってサウンドが素人耳にもハヌマーンのそれ。でも完全に同一ってわけではなく、その当時の流行りや独自性を盛り込んで自分たちのものにしている。そして俺たちの山田亮一に比べて歌詞が超青臭い。でもそこがいい。

 上で挙げたフライングレッドのイントロのカッティングとか嫌いな人類いないだろって思っちゃうくらい好きなんですよ。とにかくギターの無敵感が半端ない。空間切り裂き系。あと渋谷レプリカントのAメロの裏で鳴ってるやつとか。

 フライングレッドとか、彼らの代表曲であるニュースキャスターとかサイレントオベーションとかそういうめちゃくちゃアガる曲ももちろんいいのだが、バラードもちょっと肩の力が抜けたテイストの曲も変わらないクオリティでやってのける平衡感覚の高いバンドで、とにかく出す音源出す音源「うーん……」と思ってしまう曲がほとんどなく、これはなんかあればすぐに人気に火が付くに違いないと僕は確信していた。

 三人ともプレイヤーとして上手いのでめちゃめちゃバンドとしての完成度が高くて、音源もよくて、話聴くとこによればライブもめちゃよかったらしいのになかなか売れず、そのうち同期のWOMCADOLEとか緑黄色社会とかIvyとかがメキメキ頭角表してきて、気が付いたら1stフルアルバムのツアー終了後まもなく解散のお知らせが来て、大阪で最後のワンマンをやって解散してしまった。奇しくも、閃光グランプリ獲得者は売れないという謎のジンクスが的中してしまった形になる。

 彼らの最後のアルバムである「未来世紀エキスポ」が出た際のツアーに僕は参加するつもりだったんだけど、どうしても仕事の都合がつかずに見送ってしまい、結果的に僕は彼らを二度と生で観ることがなかった。ホームページに掲載された「フィッシュライフから皆様へ大切なお知らせ」を見た時の、あの「やってしまった」とでも言わんばかりの絶望を未だに覚えている。その当時は本当に凹んだ。「推しは推せるときに推せ」とか俺の前で二度と言わないでほしい。推せるときに推してる方が悲しいんだよ。

 そのツアーには超能力戦士ドリアンとかドラマストアとか、後々にドカッと名を馳せることになるバンドが一緒に参加していたりして、なんでフィッシュライフはそこに一緒に名を連ねなかったんだろうなって今でも思う。

 本当に後悔の念ばかり募るバンドだけど、残された音源は今でも変わらずめちゃくちゃいい。バンドがいなくなったって音楽は変わらずそこで鳴り続けるのだ。このブログを読んで聴いてくれる人が一人でもいればいいなと純粋に思う。

 

 

 そんなわけで今に至る。今でも僕はここで挙げた以外にもいろんなバンドに現を抜かし、音源を漁り、チケットの当落に一喜一憂し、各所にひとりでふらふらと赴いて爆音を浴びてほくほくして帰宅する。そんな毎日が続いている。

 でもまあバンドって生ものでありつつ一寸先は闇の音楽業界と言う魔境で呼吸している存在で、音楽としての耐用年数、要はリスナーがそれを長く聴けるって部分には強いけど、わりと時代遅れでニッチな産業のくせに競争率が高いせいで流行り廃りが激しいので、5年もすればシーンが綺麗に入れ替わる。5年前には武道館やってたのに今は地方の箱も満足に埋めれないバンドなんてザラにいる。

 僕が好きなバンドも1年後、5年後はどうなってるか分からない。音楽性の違いとかそういう理由で解散するかもしれないし、不慮の事故や病気とかで唐突過ぎる別れを迎えるかもしれないし、信じられない不祥事を起こして評価が駄々下がりになる可能性だってある。そもそも僕が新譜を聴くうちに幻滅したり好みが変わったりする可能性すらあって、今当たり前にCDを買ってるバンドのライブに5年後行きますかって言われたらそれは本当に分からない。何にでも終わりは来る。忘れがちだけど変わることない事実。

 

 まあそんなこと思っても今のバンドがかっけえからしょうがないんだよな。そんな栓のないことを考えたって明日もバンドはかっこいいし解散したって永劫カッコイイ。この記事に挙げた歩みを止めたバンドだって、それをリアルタイムで追ってた人は解散のことなんて欠片も考えずがむしゃらに追ってたのだろうし、バンドもそれにこたえてたのだろう。一体感なんて言葉は嫌いだけど、確かにそういう空気がバンドとリスナーの間で共有されて、そういうものの織り重ねで市場やら業界やらは出来ているんだと思う。

 そういう積み重ねで孕んだ熱はくすぶることなくそこに在り続け、僕みたいな何かを間違えてしまったようなやつがそれを掘り起こし、感動したり打ちひしがれたり絶望したりする。そういう繰り返しで各々のルーツや嗜好は成り立ち、構成されているのだろう。これもまた立派な音楽の歴史である。

 あくまで他人、一般人である僕らは、自分たちがお金を貢ぐ対象であるコンテンツがなるべく長く、のびのびと活動と発展を続けられるように支援をすることだけ。自身でそれに対する愛を伝えることが少しでもその助けになるならば、これからも出来る限り、どんな形でも好きだーって気持ちを伝えられたらなって思う。

 

 長くなったがここまで。願わくば僕の好きなバンド・アーティスト全員が、一生お金に困らず、健やかにのびのびと好きなものに打ち込めますように。