愛の座敷牢

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MODE MOOD MODEとかいうただの最高傑作

 ビンゴ記事である。前回はこちら

 

 

 タイトルの通りである。これ以外に何も書くことがない。

 

 

 一応これは「Catcher In The Spy以外で好きなユニゾンのアルバム」というお題についての解答なのだが、本当にこれ以外に書くことがない。

 書くことがないのでもう一回書いてやろうか? MODE MOOD MODEはUNISON SQUARE GARDENが今までリリースしたすべてのアルバムの中で一番クオリティの高い最強のアルバムです。

 間違いなく最高傑作です。今後これ以上の作品は出ません。以上! この話終わり! こんなブログさっさとブラウザバックしてタワレコでこのアルバムを買いなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ本当にこれだけならTwitterで良いので、手短に。

 そもそも、毎回毎回しつこいほどに何度も何度もCatcher In The Spyは最高至高とさんざっぱらCatcher In The Spy様をコスっているこのブログで今更何を申すかと言われればこちらは平謝りするしかないが、一応弁解しておく。2022年7月現在、UNISON SQUARE GARDENが出しているすべての作品の中で僕が一番好きなのは「Catcher In The Spy」である。この先これが変わらない、という保証は無いが、限りなく低いと思われる。というかそんなアルバムが出てきたら僕のこれまでの価値観が全て狂いかねない。

 いくつも存在するUNISON SQUARE GARDENのアルバムの中でCatcher In The Spyが一番好きな理由は、僕自身がロックなユニゾンが一番好き、ドンドンうるさくてスピーディで攻撃的でカッコいい曲をやってる彼らが一番好き、というのがやはり大きいが、それ以外にも初めて聴いた「天国と地獄」の衝撃とか、その衝撃を受けてダッシュで近所のTSUTAYAに駆けこんで借りてド頭一発目に聴いた「サイレンインザスパイ」からの「シューゲイザースピーカー」の超威力とか、それらを全て何もなかったかのように過去にする「黄昏インザスパイ」の圧倒的なエンディング感とか。49分という、長針が一周もしない時間の中で受けたいくつもの衝撃と、そこから幾度も幾度も聴き返して魅力を深掘りしていったことで、自分の音楽に対する価値観の根源に作用するくらいに大きな存在になったことがとても大きい。

 だから、ぶっちゃけ言ってしまえばこのアルバムを聴きまくって価値観や嗜好や思想がそれ専用に凝り固まってしまい、ひいき目にしている部分も少なからず有る。楽曲単体で考えたらこのアルバムに収録されている曲と匹敵するくらいに好きな曲もいくつもあるし、収録されている曲の演奏や構成、歌のクオリティでも引けを取らないどころか凌駕するものもたくさんある。僕がCatcher In The Spyを好きな理由は、このアルバムの有する魅力がその根幹ではあるが、僕自身の価値観にまで影響を与えてしまったが故の「補正」のような部分がかなり強いことも自覚している。

 

 で、そういう余計なひいき目や補正を一度全て取っ払って、限りなくフラットな観点で彼らのこれまでのアルバムを再評価した場合、または自分が全くユニゾンというバンドを知らない状態で、彼らがこれまでの活動の中でリリースしてきた作品を全て聴いたと仮定した場合、何も知らない自分が最もクオリティが高いと評価するのは、おそらくこの「MODE MOOD MODE」だと思う。それほどまでに完成度が高い。

 もしも僕がCatcher In The SpyではなくこのMODE MOOD MODEを先に聴いていたら今の僕にとってのCatcher In The Spyの立ち位置は全く違うものになっていたと思うし、UNISON SQUARE GARDENという存在に自分が求めるバンドとしてもあり方も全く異なるものになっていたはずである。

 兎にも角にも全方位にクオリティが高い。本当にクオリティが高い。クオリティが高い、という誉め言葉はMODE MOOD MODEの特徴を具体的に説明するために生み出されたのですか? その通り。クオリティが高い、の元祖がこのアルバムである。どれだけ考えても悪いところが一個も無い。

 一体何がそんなにクオリティクオリティとお前を狂わせているのか、と思っている方も多いと思うので、一度改めて収録曲を確認したい。

 

01.Own Civilization (nano-mile met)
02.Dizzy Trickster
03.オーケストラを観にいこう
04.fake town baby
05.静謐甘美秋暮抒情
06.Silent Libre Mirage
07.MIDNIGHT JUNGLE
08.フィクションフリーククライシス
09.Invisible Sensation
10.夢が覚めたら(at that river)
11.10% roll, 10% romance
12.君の瞳に恋してない

 

 改めて見ると正気の沙汰じゃない

 何これ 総選挙の結果ですか? ベストアルバムですか?

 

 この曲の並びを改めて見て「尋常ではないほど豪華」「頭がおかしい」となるのは、UNISON SQUARE GARDENのファンとしては仕方のないことだと思う。大盤振る舞いにも限度がある。メインディッシュしかないコース料理。曲それぞれの火力があまりにも高すぎる。捨て曲、どころか「この曲良いとはおもうけど好みではないな……」みたいな曲すら一切ない。

 シングル曲はもちろんのこと、アルバム曲も一曲一曲が単品で1記事書けるくらいに言いたいことがあるのだが、そんなことをしていると死ぬまで書き上げられないので、断腸の思いでアルバム曲を3曲ピックアップして紹介する。

 

 

05.静謐甘美秋暮叙情

 

静謐甘美秋暮抒情

静謐甘美秋暮抒情

  • provided courtesy of iTunes

 

 他のアルバムの信者として先に一つ言わせてほしい。ズルくない? この曲の存在

 このアルバムがリリースされて早4年(!)が経過しているが、未だにこの曲の立ち位置はUNISON SQUARE GARDENの全楽曲の中でも異質なものとなっている気がする。本当に独特な雰囲気だけどとにかくオシャレ。

 ギターの音作りといい歌詞に使われているワードのセンスといい、どこをとっても「アダルティ」という言葉が本当によく似合う。UNISON SQUARE GARDENの重要な個性の一つでもある「多面性」というものを、最も如実に表している曲の一つと言っても過言ではない。現存するUNISON SQUARE GARDENの曲を対象に、何らかの項目を設定して散布図を作成したら、間違いなくどこかの端に位置する。

 A→B→サビで段階的に歌のテンションをあげていく構成となっているが、メロディとギターのサウンドが本当にどこを切っても一級品であり、小節ごとにあの、相席食堂の「ちょっと待てぃ!!」ボタンを押して止めて戻りたくなるため、そこまでテンションが高い曲でもないのにこちらの感情は大変忙しくなるという魔性の一曲である。

 余談だが、この曲の歌のレコーディングの際に我らがギターボーカリスト斎藤宏介氏は風邪を引いていたらしく、それも相まってか知らないが余計にセクシーなテイクとなっており、なんというか「悩殺!」という雰囲気である。この情報をネットのインタビュー記事か何かで初めて読んだ時、僕は率直に「これから毎回レコーディングの前の日だけ風邪ひいてくんねえかな」と思った。不謹慎

 他にもド頭の派手なベースと言い、Dメロ前のセッション風間奏と言い、どこをとっても聴きごたえ抜群なのに、まるで水でも飲むかのように嘘みたいにするりと味わえてしまう後味すっきり感と言い、「叙情」ではなく「抒情」をチョイスするセンスの良さと言い、本当に上質な「淫靡」と「癖」を詰め込んで最高の調理をした結果出来上がった満場一致のウマい奴がこの曲である。耳から流すタイプの吉沢亮、ヘッドフォンに転生した世界線本郷奏多、もう何でもいい、お前の思う健全な範囲の「エロ」をイメージしろ。それが現代に顕現したのが「静謐甘美秋暮叙情」だ

 Own→Dizzy→オーケストラ→FTBという、UNISON SQUARE GARDENの全アルバムの中でも、屈指の無敵感のあるこの4連打を一撃でがらりと雰囲気を変える威力を持つ、このアルバムの裏エース的一曲である。これまでもこれからも、どんなライブのどんなタイミングで披露されようと、観客は静かに、されど確実にアガる。こんな曲他にない。欲を言うならこんな感じの雰囲気の曲がもう一曲くらい欲しい。カップリングでも全然良いので。

 

 

08.フィクションフリーククライシス

 

 

 挙げておいてなんだが、未だに「フィクションフリーク」なのか「フリークフィクション」なのかが分からなくなる。なんとなく後者の方が読みやすい気すらする。「最初にくしゃみをするようなタイトルの曲」と覚えておこう

 UNISON SQUARE GARDENの数多の楽曲を語るうえで、個人的にかなり信頼している一説に「名前が全部カタカナの曲は大体好み説」というものがある。近年の田淵氏の楽曲命名のトレンドが「それっぽい英単語三つ並べる」のような気がしているが、僕の心臓を撃ち抜くパワーを有する曲は、大抵カタカナだけのキュッとした名前のものが多い。

「サイレンインザスパイ」「シューゲイザースピーカー」「マスターボリューム」「カラクリカルカレ」「マーメイドスキャンダラス」など、ちょっと挙げるだけでも本当にThe Powerの権化のようなラインナップで笑ってしまったが、このフィクションフリーククライシスもそれらに匹敵する威力の高いソリッドで大変にカッコいい曲である、とはならない。残念だったな! そう、こいつは

 

 

 メカトル枠である

 

メカトル時空探検隊

メカトル時空探検隊

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 ――――瞬間、おまえの脳裏を過るポンコツで無様なタイムマシンに乗ったバスケットシューズを履き潰してピッチャーマウンドに立ちながら華麗に倒立を決める傍若にフレンチをフライする光景(in Madagascar's capital)――――

 

 

「フィクション」「フリーク」「クライシス」と、イケメン度の高い単語を三つも拝借しながら、それらを雑に融合、いや縫合召喚して出来たこの自意識がクライシスした迷子は、歌詞も展開もやりたい放題の大問題児である。融合というよりはもはや交通事故のほうが印象としては近い。そりゃ迷子にもなる。

 ま~リリースされて4年経っても未だに意味のわからん歌詞。やりたい放題な曲調も相まって理解を放棄するレベルの煩雑さで、正直考察とかするのも馬鹿らしくなる。とかいうと真面目に考察している人に失礼なのでこれは取り消すが、ぶっちゃけ僕はこの曲になんか深いメッセージ性とか込められてる方が無粋な気がする。この子はきっとメカトル時空探検隊の生き別れの他人です。

 どう弾いているか分からないけどおそろしく難しいことだけは分かるイントロのリフから始まり、サビさえちゃんとしてればあとは何してもだいたい許されると言わんばかりの詰め込みっぷり。間奏開けの「自意識がクライシス迷子!(迷子!)×7」を初めて聴いた時は、「正気か?」と耳を疑った。カッコよさで誤魔化されそうになるが、冷静に考えて「迷子!」のコールはだいぶキモい。えっキモくない? イケてる? フィクションにもフリークにも騙されてるよそれ ござる口調のフリークに騙されてる

 

 ぶっちゃけこの曲がMODE MOOD MODEの中で特別好きというわけでもないのだが(もちろん良い曲だとは思うけど)それを踏まえた上で敢えてチョイスした理由は、この曲がMODE MOOD MODEというアルバム全体を通して語るうえで非常に重要な存在だからです。なんかヴェルタースオリジナルみたいな語り口でウケる

 インタビューか何かで田淵が「本当は違う曲が入る予定だったけどふざけ感が足りなくてこっちに変えた」と語っていて、このバンドのスタンスが垣間見えた気がしたというか、アルバムを出すことを単に曲が貯まったからやる行為として捉えず、全体の構成や雰囲気を大切にして、一つの楽曲と同じく、一つの作品として昇華することを当たり前にやってる姿に感銘を受けたというか。別に曲が溜まったから出しますでも悪くは無いけど、やっぱり一本芯の通った、きちんとしたコンセプトのあるアルバムは強い。

「MIDNIGHT JUNGLE」というこれまた中毒性の高いジャンキーな曲と、収録されたシングル曲の中でも随一の人気と主役感を誇る「Invisible sensation」の間を取り持ついぶし銀な問題児である。この曲からの「Invisible sensation」の繋ぎは本当に美しい。「高らかに」が大変よく映える。

 余談だが、この曲に取り替わる前の「別の曲」とはどうやら「ラディアルナイトチェイサー」だったらしいが、そりゃ賢明な判断である。あんなハイボルテージな核弾頭を間に嚙ませたら何もかも分からなくなる。書いてて思ったが君もカタカナ曲だな この際次のアルバムは全部カタカナ曲にしないか? 

 

 

12.君の瞳に恋してない

 

 

 気付けば一千万再生間近

 個人的なMODE MOOD MODEというアルバムの唯一の欠点、それはこの曲をアルバム発売前に先行公開してしまったことである。本当に本当にもったいない。これはアルバムを通して聴いた最後で初対面を果たしたかった。この失敗以降、僕はアルバム発売前の先行公開曲はなるべく発売されるまで聴かない、と自制を心がけている。そのおかげもあってか、Patrick Vegeeはほとんどのアルバム曲を前知識0で味わうことが出来た。

 僕は「シュガーソングとビターステップ」よりも「オリオンをなぞる」よりも、この曲が彼らの代名詞になってほしいと願ってやまない。彼らの各分野に突出したパラメータの中から、「楽しさ」「多幸感」を丁寧に抽出・精製・研磨し、最高の味付けを施した名曲である。曲もMVもきらびやかでとても良い。

「Dizzy Trickster」「fake town baby」「MIDNIGHT JUNGLE」といったかなりパンチの強いロックな楽曲を複数収録しながら、聴き終わった後の印象がしっかりとポップにまとまっているのはこの曲の存在がとても大きい。史上初のシングル曲4曲収録をはじめ、ロックもポップもバラードもジャジーも何でもありのジェットコースターのような面々に好き勝手思うがままにやらせたうえで、アルバムの感想を「この曲への感想」に書き換えてしまうほどの存在感を放つ。

 我らが「harmonised finale」や同アルバム収録の「オーケストラを観にいこう」と同じく、かなり前面にピアノやホーンの音が出ており、特にメインのリフはギター聞こえる? と疑ってしまうほどに大胆に使っている。それでもUNISON SQUARE GARDENらしさが消えず、むしろ要所要所での三人それぞれの見せ場をより強く引き立てるバランスになっていることに編曲の巧みさを感じる。情報量の多さに反して、聴き疲れることもない。

 歌詞については特段好き! ってほどでもないが、それでも曲名でも分かる通り、バンドとファンとの一定の距離感を意識していることが伺える。毎回、色んな言いたいことを独特な語彙と絶妙なワードチョイスで水彩画のインクのようにぼかし、その上でメロディーに無理をさせないように詞を乗せている、彼しか紡げない歌詞である。

 とにかく聴いていてとても「楽しい」、これに尽きる。ライブでも観客のテンションを上げるためのブースターのような位置や、ここぞ、という大事な場面、そしてライブのフィナーレなど、ライブ全体の雰囲気を決める大事な場面で披露されることが多い。今のUNISON SQUARE GARDENを語るうえで欠かすことの出来ない一曲である。

 本当に全方位に隙がない優等生な曲であり、これにタイアップが無いのが信じられないよな~と思って改めて検索したら、サジェストに「君の瞳に恋してない アニメ」だの「君の瞳に恋してない ドラマ」だの出てきて、ああそうだよね、そう思うよね……とつよく頷いた。今からでも良いので主題歌起用とかないんですかね?

 

 

 このほかにもド頭に視聴者を噛み千切りに来る狂犬こと「Own Civilization (nano-mile met)」、正統派爽やかなのに歌詞が俺たちに刺さりまくる「Dizzy Trickster」、ライブツアーで披露された時のインパクトがえげつなかった「オーケストラを観にいこう」、その中毒性抜群のサウンドテキーラで密林に永住するゴリラを多数生み出したと専らのウワサの「MIDNIGHT JUNGLE」、そしてこのアルバム唯一のバラード枠にしてつい最近になってようやく満を持して披露されることとなったこのアルバムにおける真の虎の子「夢が覚めたら(at that river)」など、アルバム曲と言えど個性的通り越して個性の殴り合いのような面々が揃っている。

 最後の「君の瞳に恋してない」のせいでポップで華やかな雰囲気を醸し出してはいるが、有無を言わさず威力でリスナーを殴りに来るその本質は、エンターテイナーというよりも極道に近い。かくいう僕も有事の際はぜひ、MODE MOOD MODE會 君の瞳に恋してない組にケツ持ちを頼みたい

 

 これだけアルバム曲が派手だとシングル曲が食われてるんじゃない? 血界戦線ボールルームへようこそブイブイ言わせてた彼らも面目丸つぶれなんじゃない? と思ったそこの貴方、安心してほしい。そうならないように、むしろアルバム曲を食わないように、MODE MOOD MODEは技巧を凝らした極めて繊細な曲順を実現している。

 個人的に、このアルバムで一番評価すべき点がこの曲順である。何度考えてもケチのつけようのない芸術的な曲順。この曲順に関してはいろいろ言いたいことがあるので、改めて収録曲一覧を紹介する。

 

01.Own Civilization (nano-mile met)
02.Dizzy Trickster
03.オーケストラを観にいこう
04.fake town baby
05.静謐甘美秋暮抒情
06.Silent Libre Mirage
07.MIDNIGHT JUNGLE
08.フィクションフリーククライシス
09.Invisible Sensation
10.夢が覚めたら(at that river)
11.10% roll, 10% romance
12.君の瞳に恋してない

 

 正気の沙汰じゃねえよ……(2回目)

 分かりやすいようにシングル曲だけ色分けをしている。正確に言うならSilent Libre Mirageだけは他の三曲と違って配信限定シングルという違いはあれど、4曲という、過去類を見ない数のシングル曲が収録されている。

 MODE MOOD MODEの曲順において特筆すべき点がいくつかあるのだが、まずは何と言っても「シングル曲が隣り合っていない点」だろう。ここが本当に大きい。絶妙にバラしてあることで、それぞれの個性が強く味の濃いシングル曲によるフックが多く出来ており、アルバム全体として捉えた時のメリハリがとても心地いい。とくにSilent Libre Mirageの位置がもう、ここしかない! って感じでほれぼれする。

 そういえば、記憶が正しければ当時、UNICITY会員限定で収録されるシングル曲の曲順だか何だかを当てよう! みたいな企画があった。MODE MOOD MODEは曲名も発売日当日まで分からないという、今までにない試みの中リリースされたアルバムということもあって発案された企画だと思われる。先に提示された情報をもとにあれこれ考えるのが結構楽しかった記憶があるのだが、この曲順を全部当てた人はいるのだろうか。

 僕は「Silent Libre Mirage」が4曲目だと思っていた。で「Invisible Sensation」がシングル最後の位置だと思っていた。結果的に全部外したうえで自分の考えの大きく斜め上をいかれて、このバンド最高だと感動した思い出がある。「静謐甘美秋暮抒情」で一旦区切りをつけて「Silent Libre Mirage」で再度ブーストをかけて、夢が覚めたら(at that river)で本編を終わらせた後の、ダメ押しとなる「10% roll, 10% romance」と「君の瞳に恋してない」のアンコール。シングル曲がばらばらに配置されてることでアルバム全体がいい感じにブロック分けされており、通して聴いても途中から聴いても満足感のある仕上がりとなっている。ここが本当にえらい。

 

 また「3曲目までにシングル曲を入れない」というのもかなり強気だけど、結果的にこれもアルバムのカラー、雰囲気を強めに一つのシングルで印象付けないことに成功しており、どの曲にも適度に主役感がある。すべての収録曲が一つのアルバムを綺麗な円形にするいい仕事をしており、これだけ個性の強い四曲なのに全体的にまとまりのある、誰からも愛される一枚になっているそのバランスの手腕がすさまじい。

 そしてなんといっても、UNISON SQUARE GARDENのアルバムでは毎回当たり前とはいえ、最後の曲がシングル曲ではないのも本当にえらい。だからこそ「君の瞳に恋してない」を先行で公開したのは惜しいなあと思うんだけど……

 収録曲の個性の強さを理解したうえで、それぞれを際立たせる緻密な構成と、それをサポートする内外の粋な演出の数々によって得られた、アルバムを一つの作品として捉えた時のまとまりと完成度。これがMODE MOOD MODEの魅力の根幹であると信じてやまない。面倒なリスナーへのサポート体制が手厚すぎる。

 

 その曲順と一緒に語るべきなのが、収録曲における「手」を意識した歌詞の数々だろう。これはもう数万人のリスナーが何度も何度も何度も語っている以上、このブログで長々と言及するのは野暮なので簡単に取り上げて終わるが、

 

差し出された手は噛み千切るけど

Own Civilization (nano-mile met)――UNISON SQUARE GARDEN

 

どうしようも馴染めないから 差し出された手は掴まなかった

Dizzy Trickster――UNISON SQUARE GARDEN

 

高らかに 空気空気 両手に掴んで 咲き誇れ美しい人よ

Invisible sensation――UNISON SQUARE GARDEN

 

テイクミーアウト! 照れながら手を握ったら

10% roll, 10% romance――UNISON SQUARE GARDEN

 

僕の手握っていいから

君の瞳に恋してない――UNISON SQUARE GARDEN

 

 シングル曲である「Invisible sensation」および「10% roll, 10% romance」を中心に「手を掴む」ことをどこか意識したような歌詞が随所に仕組まれており、アルバムの終盤に近付くにつれてその距離感が縮まっていく、という構成になっている。これをツンデレととらえるのは解釈違いなのでさておき、こういう一本通ったコンセプトがあるのはとても好みだし、「差し出された手は噛み千切る」と「照れながら手を握ったら」が同じアルバムで収録されていることも嬉しいポイントである。

 ロックバンドの距離感を大事にしている一リスナ―としては、ともすればちょっと近くなりすぎる歌詞、というのはあまり好みではないが、アルバムに一本芯が通っているといくつか有しているバンドとしてのスタンスの一つと納得がいったりする。こういう細かいこだわり、気配りもこのアルバムの魅力と言える。

 

 

 そもそもの楽曲のクオリティ、楽曲それぞれのふり幅の広さ、緻密に練られた曲順の構成、そしてひとつ芯の通ったコンセプトを有する歌詞。

 これだけの聴きどころを詰め込みながら総再生時間がなんと50分を切っているという意味の分からなさ。フルアルバムは総再生時間が50分を切るか切らないかで聴きやすさが大きく変わるという定説を、高校の先生が従姉妹にいるわたくしは提言しているが、このアルバムもその定説に違わず、この中身の濃さでも非常に通して聴きやすい一枚となっている。冷静に考えてこのアルバムが1時間超えてないの相当ヤバい。何この圧縮ぶり。通販で売ってる布団圧縮する機械ですらもうちょっと手加減する。

 

 ロックもオシャレもコミカルも全て超威力で内包したうえで間違いなく「ポップ」という異次元のバランス感覚、どんなUNISON SQUARE GARDENが好きなファンも誰も置いてけぼりにしないクオリティ、それぞれの楽曲のポテンシャルの高さ。何度も何度も繰り返すようで申し訳ないが、総括してあまりに完成度が高すぎる。

 そもそものこのアルバム発売の前年である2017年のタイアップ及びメディアへの露出機会の多さ、そして発売までの数々の粋な演出も相まって、この年までのUNISON SQUARE GARDENの勢いの集大成のような、正当な実力で順当に掴んだミラクルが最高の形で開花した、まさしく「最高傑作」の名が相応しい一枚である。現在最新アルバムであるPatrick Vegeeも、僕が愛してやまないCatcher In The Spyも、伏兵・脇役どころか4番バッター勢揃いのベスト盤ことDUGOUT ACCIDENTも、このアルバムの盤石かつ説得力のある無敵感にはかなわない気がする。

 正直、今後これ以上のオリジナルアルバムが出るとは思えないが、彼らならもっととんでもないアルバムを出してきそうな気もする。彼等ならやりかねない、そんな期待もしてしまう。もしも、そんな一枚を出せてしまったら、間違いなく邦楽史に名を残すとんでもない1枚となることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあいろいろ書いたけど、それでもCatcher In The Spyが一番強くてすごいんだよね

 そこは譲らん

 

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