愛の座敷牢

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服がない

 タイトルの通りである。服がない。

 

 ここ愛の座敷牢はブログ主であるワタクシが音楽のことしか語らないと決めて設立した由緒ただしき音楽ブログである。主に古今東西の中での極東に偏った地域を拠点に、好き勝手に己の信ずるカッコいい音楽を鳴らすロックバンドをべた褒めするために、あわよくば見知らぬ誰かの嗜好の入り口になれるように、そんな思いを込めて一記事一記事全身全霊全力全裸で執筆している。そういうブログである。

 この記事はかいつまんで要点だけ言うとタイトル通り、最近僕が着る服に困っているという話なのだけど、それと音楽に何の関係があるんじゃいと憤り、下水のような荒らしコメントを書きこみたくなる気持ちになるかもしれない。まあ服も音楽もファッションみたいなとこあるからいいだろみたいなトンデモ理屈でゴリ押ししてもよかったのだけど、一応音楽と密接に関係のある話なので安心してほしい。

 バンドTシャツの話である。

 

 地方在住で給料激安のワタクシがなぜ毎月4000円近くもする豪奢な装丁が施されたハードカバーの本やら、一本何千円もするゲームソフトやら、ろくに鑑賞もしないライブDVD付属の初回限定アルバムを毎月バカスカと買えるのかというと、単純にそれ以外の娯楽に関して殆ど無頓着なのと、酒もタバコもギャンブルも風俗もさして興味が無いのと、そもそも友達がいないので交際費という出費が存在しないからである。こう書くと生きていて楽しいのかと尋ねられることが1日2回くらいあるが、そういうときは無言でうっせえわのURLを送信している。生きてて楽しくは無いが別に死ぬほどでもない。そんな感じ。

 交際費、つまり誰かと遊びや食事に行くということがない以上、外出する服にそこまでこだわりのない自分は極めて無難な服を選びがちである。クローゼットには同じような柄のない単色のパーカーやトレーナーの色違いがずらずらと並んでいる。その色違いに関しても黒と紺色と焦げ茶色とか、よくてベージュとかそういう色ばっかり並んでいる。ズボンに関しても同様である。何も考えずに着る服を選んだら全身真っ黒バッグも靴下も靴も黒ってことが本当に多い。無意識に闇を纏っている。

 基本的に僕は冬でも肌を出すことがあまりないので毎年長袖を着ている。だから下に着るTシャツに関してはそれ以上に無頓着……と言うわけでもない。肌が弱いので材質だけはちゃんと吟味している。着心地重視で選んでいる。選んでいる、とは言うが、ここ数年はあまりすすんでTシャツを買っていない。ライブ会場にてバンドTシャツを買うようになったからだ。

 そう、ここ数年僕はインナーのほとんどをバンドTシャツに依存している。

 

 バンドTシャツ。それはライブ会場にてCDよりも高い値段で売られているあの謎の布のことである。

 仕方のないことだが、ライブ会場というのは基本的にぼったくりの魔窟である。原価厨になるつもりはないのだけど、タオルとかTシャツとかリストバンドとか、その日のライブ以外にこの先の人生のどこにも活躍の見込めそうにないラバーバンドとか、バンドのロゴやデザインが施されただけでなんでそんなに跳ね上がるんだと問い詰めたくなる、買えなくもないけど懐に確実なダメージを与えるボディブローのような値段を平気で提示してくる。毎回毎回全部買っていたら破産してしまうのだ。

 だから僕はどれだけそのバンドのことが好きでも応援したくてもそのグッズが可愛くても、普段使い出来ないのならば買わない。リストバンドもラバーバンドもバッグもキャップもステッカーも買ってもほどんど使わないし置き場に困るから買わない。グッズを買うことが応援につながるとか言うならもっと普段使い出来るものを作って売ってくれとしか言えない。爪切りとか耳かきとか。

 そうなってくると買うものというのは必然的にTシャツに偏ってくるわけで、気が付けばタンスの中はバンTバンTバンTのバンT独走状態、真面目に毎日どこかのバンドが出材したものを着用して過ごしている。着替える前も後もバンT。寝る時も起きるときもバンT。着ないときと言えば風呂に入ってる時くらい。月30日のうちの28日くらいはバンTを着ている。外出する時も何食わぬ顔でインナーに着ている。

 当たり前だがそんなことをしていると劣化が著しいのだ。着用⇔洗濯の無限ループに耐えられるようなバンドTシャツは多くない。数ヵ月も着ていれば襟元が伸びきってしまい、首が二つある人向けのものになってしまう。僕の着方が雑なのもあるが。

 そうして伸びきったTシャツはやがてどう頑張っても着れなくなり、ついには僕のこの世のものとは思えないくらい汚い部屋をキレイにするための雑巾になる。愛するバンドマンたちが脳みそを絞ってデザインしたTシャツをまさしくぼろきれのように使って、鬼の形相でフローリングに沁みついた謎の汚れを拭っている。弁天が見てたら問答無用で殺されそう。ダウンサイクルしか脳のないチンパンジーか?

 着続けてぼろきれになったTシャツで部屋を清めながら次のライブを待ち、会場で新しいTシャツを買い、それがぼろきれになるまで酷使しつづけまた高級な雑巾を生成し、それですべてを磨き上げながらまたライブを待つ。この繰り返しが僕の人生であり、そして唯一のインナー供給源だった。だったのだ。

 

 そう、コロナ禍でライブに行けなくなってから僕はもうずっとTシャツを買っていない。

 

 もう部屋のタンスからは死体の臭いが漂い始めている。僕の乱雑な着用に耐え続けた歴戦のTシャツたちもそろそろ限界が近い。多めの液体洗剤と共に週に3回くらいのペースでうちのパワー洗濯機にぶん回され干されまた着られる。服に対する思いやりが小学生の頃から一切変わっていない頭のおかしい成人男性に、病めるときも健やかなるときも一方的に共にいることを誓わされた、あまりにも可哀そうな2500円か3000円のTシャツたち。生まれ変わってもこうはなりたくない。

 そろそろ本当にライブに行かないとTシャツがない。このままタンスの中のTシャツをすべて雑巾に錬成してしまうと、インナーなしでトレーナーやパーカーを着る変態になってしまう。変態にはなりたくないのでTシャツの供給を心待ちにしているがそうは言ってもなかなか終わらぬコロナ禍とそれによってこっち(九州)に渡ってこないロックバンドのせいでいつまで経っても僕は新しいTシャツが手に入らない。おもしろおかしくかいているが本当に死活問題である。僕が変態になる前に助けてほしい。

 わかるよ、通販で買えっていうんだろ、でもさ通販で買ったら肌触りが分からないじゃないですか。バンドTシャツの生地はマジでハズレが多いんだから自分で触らないと信用できないんですよ。肌強い民には分からないのかもしれないけどな、下手なの引いたら3000円で雑巾買った人になるんだぞ。慎重にならざるを得ない事情があるのだ。ユニクロに行け? それはまあ、うん、そうだね

 

 ああライブにいきてえ