愛の座敷牢

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Catcher In The 推し曲

 

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 CITS、ズバリ推し曲は?(自分はメカトルです)

 今世紀を代表すると言っても過言ではない超難問が我がお題箱に投函されました。途方に暮れています。

 

 

 このお題を送ってくださった方は知らなかったかもしれないが、僕はUNISON SQUARE GARDENの五枚目のオリジナルアルバム「Catcher In The Spy」の大ファン、否、信者である。狂信者と言っても差し支えない。

 このアルバムに対する思いの丈はこれまでブログ内で幾度か語ってきたので今回はあえてここには記さないが、端的に語るのであれば「最強」のアルバム。一番強い。貴方が「最強」という言葉から想起している何よりも強い。チャック・ノリスよりもモハメド・アリよりも室伏広治よりもグリズリーよりもミラボレアスよりも、五条悟よりもお前の母よりも、強い。この世においてCatcher In The Spyに勝てる概念は存在しない。僕がそう心酔してやまない史上最強の一枚である。

 そんな史上最強の一枚を構成する12曲も違わずそれぞれ最強なわけであって、推し曲、つまり自分にとってその中で一番優れた曲はどれかという質問は、言うなれば12の最強が己の威厳をかけて鎬を削り合う、各々の譲れぬプライドをかけた天下分け目の大戦争の引き金を引く、いや引かせることに等しい。そういう「覚悟」があってお題箱に質問を投げたというのであれば、その胆力は感嘆に値する。今僕の脳は硝煙と爆音に塗れた戦禍をこの上なく鮮やかに描いている。

 そもそもこのお題を投げた方はご丁寧にわざわざ「自分はメカトルです」と語ってくださっているが、果たしてそれは本当に残りの11曲と血で血を洗う正面衝突を行った上で語っているのだろうか。本当にメカトル時空探検隊が、考えられる全てのシチュエーションにおいて残りの11曲を凌駕して貴方に「推し」だと言わせるだけの実力を有していると判断させたのか? そうだとしたら貴方にとってのメカトル時空探検隊という存在が、どれだけ大きいものなのかがなんとなく理解できる。それほどの愛を抱えて生きていけるのであれば本望だろう。

 しかし、曲がりなりにも僕もCatcher In The Spyファンの端くれを自称して、そこそこの年月が経過している。この最強のアルバムにおける自分だけの「推し」つまりマイベストソングを、The strongest of theseをここらで決めてもいいかもしれない。こうしてはいられないと思い、ほとんど何も考えず筆を取っている次第である。

 刮目してくれ令和3年。今一番熱い血潮が流れている場所はここ、愛の座敷牢である。

 

 とはいってもそう簡単な話ではない。ぶっちゃけ結論から言えばこのお題の解答は「日による」である。「時間による」と言い換えても差し支えない。日替わりならぬ時間割制である。推しが不変であるというその定説にまず疑いを持たねばならない。

 物事には適材適所というものがある。眠りにつくときに「シューゲイザースピーカー」は騒がし過ぎるし、事故に遭った際に「君が大人になってしまう前に」ではアドレナリンの分泌量が足りないため鎮痛効果は期待できない。運転中に「天国と地獄」なんて聴いた日には一発で免停である。Catcher In The Spyを構成する12曲は万能ではあるが全能ではない。いかなるシチュエーションにも合わせてその時その時の最適解を導き出す楽曲を的確にチョイスすることが、Catcher In The Spyのポテンシャルを最大限に発揮することにつながる。これはCatcher In The Spyに心を委ねる上での基本理念であり、世の中のCatcher In The Spy信者はみんな無意識のうちにこれを遵守している。

 言い換えれば一つの「推し」を決めるということはその基本理念を根本から否定すること、つまり今後の自身の人生に関わるあらゆる局面の解答を、一曲に委ねてしまうということに他ならない。これから先に待ち受ける喜怒哀楽を全て一つの曲に委ねる覚悟を、途方もない数の艱難辛苦をたった一曲と共に乗り越えていく覚悟を決めねば、この絶対的な解答へのスタートラインにすら立てない。分かっているとは思うが、「推し」を決めるとはそういうことだ。生半可な気持ちでは12曲を争わせることなんて出来やしない。

  その覚悟を決めた上でもう一度考えてみよう。Catcher In The Spyというアルバムにおいて、自身にとっての「推し」はどれか?

 

 

 答えは「そんなもの決められるわけない」である。

 

 

 足りねえよ圧倒的に。覚悟が。

 こちとらCatcher In The Spyという最強のアルバムの最強の12曲をとっかえひっかえしながら、日夜粉骨砕身の心持ちで日々の業務に励んでいる心身ボロボロ先行き真っ暗企業戦士だというのにな、今日からお前の心の支えはこの中の一曲だけです、さあ決めろなんて言われてもな、無理に決まっておろうがよ。12曲あって初めて何とかなってるんだこっちは!!!! 前言撤回、推しを決めるのであればまず必要なのは覚悟ではなく世直しだよ。この世界は人間がたった一曲を支えに頑張って生きていくにはちょっと厳し過ぎる。脳内で戦争する前に国に戦争を仕掛けろ。まず爆破するのは他の11曲じゃなくて首相官邸である。じゃあやっぱりぶっ込めサブマシンガンとか

 この国に戦争を吹っ掛けて少し冷静になった頭で考えるが、考えすぎてそもそも「推し」というのが分からなくなってきた。「推し」とは何か。僕は「推し」という言葉をこれまで自身の心臓・魂のようなものと解釈してここまで書いてきたが、そもそも「推し」とは推薦という言葉から来ており、他人に推薦出来るほどに好きであることを指すそうな。他人に「推薦」する。プレゼンする。この曲マジでパねえから早くこの曲専用の聴覚を40秒で準備しな! と言える。そんな曲のことを指すらしい。そんなもん全部に決まっている。Catcher In The Spy収録曲それぞれに個別の聴覚を準備するのは国民の義務。中学で公民の授業を受けた人ならみんな知っている。

 だがここでいう「推し」というのはおそらくそこからもう一歩先、「その中でも」一番好きで他人に「俺のことは見捨ててもいいからこの曲だけはよろしく頼む」と懇願できるような存在のことを指すのだろう。自分の命を引き換えにでも他人におすすめしたい、そんな珠玉中の珠玉、究極を超えたTHE・アルティメットな一曲。それを12曲の中から選んでくれ、と。何だか核心に迫ってきた気がする。自らの命を引き換えにしてでも他人におすすめしたい一曲。Catcher In The Spyという最強のアルバムをもとに脳内にて議論に議論、抽出に抽出を重ねて弾き飛ばされた解答は

 

 

 「そんな曲はない」である。

 

 

  理由は至極単純で、僕が死んだら他でもない僕自身がCatcher In The Spyを二度と聴けなくなるからである。そもそもどこのどなたさまか分からない奴のために、自分の好きなアルバムを引き合いに出して命を懸けること自体どうかしている。頭おかしいのか? 命を何だと思っているのか。いい加減にしてほしい。なんでそこまで他人本位で生きねばならないんだ?

 

 というわけでCITS、ズバリ推し曲は?という問いについての解答ですが、僕の答えは「推し曲は無い」に決まりました。強いて言うならこれを書いてる今は黄昏インザスパイを聴いてるので黄昏インザスパイが好きです。あと30分も経てば変わると思います。

 これで採用面接でCITS推し曲について訊かれた際もバッチリですね! 愛の座敷牢は頑張る就活生を応援しています。